暗闇のなか奇妙な電子音が鳴り始め、ステージには天井から幾つもの光のバーが差し込む。モデルが登場し、木靴の足音が電子音と共鳴するなか、次第にRick Owensの妻であるMichele Lamyのボーカルが会場を包み込む。
メンズウェアでありながら、最愛の女性Micheleをミューズに、彼女に捧げた今回のコレクション。その中で彼は男性を「自身の規律、科学、信仰を有する、アイランドである」と定義する。
独自のダークエレガンスで知られる禁欲的な彼のピースに今回取り入れられたのは、解放感。コットンオーガンジーにコットンキャンバス、産業用ナイロンを使い、透明感や軽さが演出された。シグネチャーのレザーピースも薄く削られ、またボンバージャケットはナイロンガーゼの表地とブラックの裏地が重なり繊細な色味を創りだす。
プラットフォームスリッパーとレッグウォーマーの足元からはじまり、スカートのようなエプロン付きショーツ、マキシ丈のチュニック、ミンクのワンショルダーベストと、今回もウィメンズの要素が多く取り入れられているが、中性的でアンドロジナスというよりは、新時代のトライブのような神聖さを強く感じさせる。
同じく、異素材のパッチワークにカラーブロッキング、ジオメトリックに力強いリネアモチーフなど、多くのデザイナーに見られる現代的な要素も、Rick Owensの世界に美しく溶け込まされた。
またハイネックやタートルネック、そして胸元から取り付けられた戦闘服のようなアシンメトリーのパネリングなど、前回に引き続き襟周りのディティールにも注目。
コレクションには登場しなかったアクセサリー類も、オリジナルジップを使用した斬新なシェイプのバックや武骨なラップトップケース、バッファローの角を使ったサングラス、またより進化していくスニーカーやブーツなど、注目したいアイテムが揃う。
高みへ登りつめた前回のコレクション「MOUNTAIN」から、「ISLAND」へ。ダークドレープ界を牽引するデザイナーは、より自らの美学を追求し、挑戦を続ける。
Text:Yasuyuki Asano