Interview

蘆田裕史 2/5

今のファッションの現状を見渡すと、批評をする場がないことが一番大きな問題だと思っています。一年に一回でもいいから、そういうものを発表出来る場が必要だと思ったんです

→蘆田裕史 1/5

―ファッション批評誌を作ろうと思った理由とはどういうところにあったんですか?

 今のファッションの現状を見渡すと、批評をする場がないことが一番大きな問題だと思っています。ファッション業界には批評家と呼べる人はほとんどいない。もちろん平川武治さんのような方もいますが、平川さん以降は全然現れていないように思います。ちなみに僕自身、時々批評家という肩書きを使うことがあるのですが、正直なところ、僕はまだファッションの批評をやっているとは思っていません。その肩書きを使うのは、覚悟みたいなものですね。仮にファッションでも批評家がどんどん増えたとしても、発表の場がありません。これまでにも『ユリイカ』のように、ファッションの特集をした批評誌はありますが、一回きりの特集ではなく、継続して発行されるものが必要です。読者からファッションの批評をやりたいと思う人が出て来ても、次に特集が組まれるのはいつになるのかわかりませんので。
 ですので、一年に一回でもいいから、そういうものを発表出来る場が必要だと思ったんです。ファッショニスタは自費出版で販路も少ないですが、それでも本屋さんで手に入るものが作れたらひとつのとっかかりになるのではないかと思っていました。

―なぜ水野(大二郎)さんと一緒に作ることになったのですか?

僕はもともとウェブでオンラインジャーナル的なものをやりたいと思っていたんです。
 アントワープのMoMu(モード美術館)でインターンをしていたときに、contemporary fashion archive(http://www.contemporaryfashion.net/)というサイトに関わっていました。このサイトはMoMuのほか、ロンドンのセントマーチンズなど五つの機関で共同運営していたサイトです。ここではデザイナーのプロフィール、過去のコレクション画像、ファッションの美術館や教育機関などの情報がアーカイヴされていて、少しずつ歴史が積み重なっていっていました。ここは2007年頃に更新がストップしてしまったのですが、こんな感じのサイトを日本でもやれたら良いと思っていたんです。その頃にたまたまchangefashionを見て、こんなサイトがあるなら僕がやらなくてもいいや、と。むしろ、ここのお手伝いをしたいと思い、コンタクトを取りました。
 changefashionではコレクションの画像やインタビューなどが体系的にではなくともアーカイブされ続けるので、そこの問題はとりあえずはクリア出来る。その次には、文章──批評や論文など──そういったものが残っていかないといけません。changefashionにはブログもありますが、ブログだと長くて1000字くらいが妥当だと思っています。まさかブログで1万字とか読めないですよね。なので、changefashionだときちんとした文章を残すのは難しいし、おそらくターゲットも違うだろう、と。そこで、オンラインジャーナルをやりたいという発想に至ったのです。オンラインジャーナルだとお金もそんなにかからないですし。

 ちょうどその時期に水野君と「批評の場みたいなものをつくれたらいいよね」って話をしていて、一人でやるよりも二人でやる方が作業も分担出来て楽になる。それに、一人だと日常の仕事に忙殺されて先延ばしになってしまいがちけど、二人でやると言った以上、お互いに迷惑をかけられないからちょっとずつでも進めなければいけなくなる。完全には一緒ではないとはいえ、お互いのやりたいことが一致して、大きな目標は同じなので一緒にやってみようということになりました。

―fashionistaの書き手はどのように探したのでしょうか?

 お金をあまりかけず、できることから少しずつやっていくというスタンスでしたので、もとから知っている人にお願いしました。バランスをとるために、表象文化論(千葉さん)、社会学(井上さん)、服飾史(朝倉さん)といったように、異なるバックグラウンドの人に頼みました。
 
―文章に蘆田さん、水野さんの加筆、修正は加えているのですか?

 寄稿を依頼した方々の文章に関しては基本的には加えていません。表記の統一をはかるために外国人デザイナーの名前をカタカナにしたり、あるいは日本語の間違い、わかりにくい表現などは修正をお願いしましたが、ほぼそのままです。内容に関しては、僕たちのカラーを出しすぎてもしょうがないと思うので、原則としてそのまま掲載という感じです。
 公募に関しては、査読がありますので、こちらの意見を伝えて書き直してもらっている部分もあります。

 プロの編集者の方からすれば編集が足りないという意見もあるかもしれません。ただ僕たちが「これはちょっとどうかな?」と思ったとしても、その評価はあくまで僕たちの評価ですし、他の人が受け取った時にそれが逆転する場合もあります。僕たちが修正を加えることによって、気づいていなかった良さを消してしまうこともある。そういうのは出来るだけ避けるようにしたかったんです。

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