SHIROMAはデザイナー城間志保氏とクリエイティブディレクターである西家康隆氏によるブランド。デザイナーである城間氏自身が全てのパターンを製作することで本人のクリエーションを確実に構築していく。
メルセデスベンツを冠スポンサーに迎え10月に行われる「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2012 S/S」に参加、ブランド初となるランウェイショーを数週間後に控え、ディレクターの西家氏にショーのことを中心に話を聞いた。
→SHIROMA2011-2012 A/W Collection
―2011年10月19日に初めてのランウェイショーを行う予定ですがなぜ今回ショーをやろうと思ったのですか
僕らはもともと特にショーをやりたいと思っていたわけではないんです。ただ今まではプレス(雑誌等の媒体への掲載)に力をいれてなかったのでそろそろ力を入れなければいけないなとは感じていた。そんな時に支援枠の話を聞いたのでもしそれに通ればショーをやってみようかなって。ショーはレディース、ユニセックスでやるんですが、今シーズンとしてはメンズも広げてアイテムをつくっています。
―ブランドを初めてからはどのくらい経つんですか
2008S/Sよりスタートしていますので次回で5年目となります。
―レディースだけでなくユニセックスも見せるのにはどういった意味があるんですか
ブランドを始めた当初はユニセックスでの提案でしか売り先が開拓出来なかった、自分たちのように尖った服を作っていると扱ってくれるのがレディスだけだと難しいんです。生き残る為に必然的に進化していったというか。
ただ僕らはもともとレディースをやっていたし、それにこだわりがある。最近は女性らしい物も売れるようになってきたんですけどもっと大人の女性にも楽しんでもらいたい。だから基本はレディースありきのブランドで、あまりユニセックスブランドとは思われたくないですね。
―今までプレスに力を入れて来なかったとのことですが雑誌等の掲載はあまりなかったのですか
今まではほとんど載ってないですね。たまにスタイリストさんにリースで貸すことはあるんですけど。
―HPを開いてもブランドに関しての情報が凄く少ないですしね
謎めいた感じも良いのかなと思いながら、最初は力を入れようと思っていたんですけどやっぱり「ページ見ても何も載ってないよ」みたいなものの方が良いのかなって。ただこの時代、何も載ってないにしてもHPがないのは駄目。だから問い合わせ先と展示会場などの最低限の情報は載せています。
―今現在取り扱い店舗数はどのくらいあるんですか
毎シーズン15から20件くらいあります。僕らみたいな不良ブランドを扱ってくれるお店さんが全国にそれだけあるということはありがたいことですね。
―言い方はよくないかもしれませんが、メディアの掲載は少ないのに取り扱い店舗は結構ありますね
そうですね。もうずっとそのスタンスでいいかなとは思っていたんですけど今はある程度露出がないと仕入れをためらってしまうバイヤーさんも多い。自分で良いと思った物を仕入れる権限を持っているバイヤーさんだったら僕らの服を本当に気に入って買ってくれる、それが結果として店舗数が増えたと思うんですけどだんだんそういうバイヤーさんが減って来ている気がします。それに今後はまた海外にも出たいと思っているので海外で展示会をやるには(バイヤーさんに見てもらう為には)、もう少し露出を増やしていかないといけないというのもあります。
ただこれだけ露出してないのになんだかんだ色々な人と知り合っている、こうやってインタビューもしてもらえる、そういうのは僕ら的には好きなんですけどね。
―以前はパリでも展示会をやっていたこともあるんですよね
そうですね。その時は(イタリアの)Dantoneとも取引出来たし、海外の人たちがそれなりに自分たちの服に興味を持ってくれた。今回は初めてのショーで忙しいのでいけませんが海外も次のシーズンまた行けたら良いなって思っています。
―展示会にはバイヤーだけで、雑誌等のプレスは呼んでいないんですか
バイヤーさんはかなり頑張って呼んでいます。プレスの方々もそれとなく呼んでいるんですけど自分たちのブランドだけで展示会をやると招待状を出しても来てくれないんです。だからここ数シーズンは他のブランドさんと合同で展示会をやっています。そうすれば他のブランドさんを見に媒体の方も来てくれるので。プレスの方と接する機会が増えたのは合同展を企画し始めてからですね。結局それでも載せてもらえてないんですけど。
だからショーをやることによりブランドのイメージが伝わるのであればやった方が良いのかなと。ただ支援がなかったのであればショーはやらずに違う形のインスタレーションをやっていたと思います。
―ショーに関しての具体的なイメージはもう出来ているのでしょうか
ショーに関しては会場によってどこまで出来るか、何を出来るかがわからない。ただ僕達はパリでショーを見て廻ったことがあって、その印象が強くある。あれくらいの規模じゃないとショーって寂しいなとも思う。だから演出でごちゃごちゃするよりは単純に服だけがしっかり見えるものにしたいと思っています。SHIROMAはコンセプトや世界観で見せるというよりは服自体で評価されたいというか、言葉やイメージが先行するのではなく、やっぱり純粋に服として面白いブランドでありたいので。
一緒に展示会をやらせてもらっているブランドさんも展示会以外はほとんど会わないし、基本的に他のブランドさんともほとんど関わりもない。それに展示会中以外は週に1回ほどしか家も出ない。僕らみたいな”不良”ブランドがそういう”場”にいるというのが自分ら的には面白みがあるなと感じています。
―事務所も渋谷や原宿ではなく中野ですしね
ただ中野という場所にはこだわりがあるんです。”新中野”でもなく、”東中野”でもなく”中野”(駅)、そこにこだわりを持っています。
―今回は支援枠でサポートを受けていますが何かそれでもの作りが変わることはありますか
今回は支援枠で100万円のサポートがあるからショーの為に何か作ろうかみたいなのはありません。それよりもお金をかけて作るアイテムを増やそうかなとは思っています。今までは毎シーズンお金がかかるアイテムが1個、2個しかつくれなかった、そういったアイテムを幾つか増やして、ブランドのイメージがもう少し出るようなものを作りたいです。
最近であれば鹿革のクラストを染めて、中綿ボンディングしたりとかしているのですが、もっと開発的な取り組みをしていきたい。見たことのないような素材を作ったりテクノロジーを取り込んだりそういうことをやっていきたい。
―レザーだけではなくですか
レザーは自分たちの中では確立してきてしまっているので正直少し飽きてきている。見たことのないような刺激的なものを作っていかければ僕ら自身が退屈してしまうんです。変に奇をてらったものではなく、ちゃんと自分たちの形として完成されているもの、それでいて僕たちが見たことのないようなものを作りたいと思っています。
―SHIROMAというブランドにおいての城間さん、西家さん、2人の役割を教えてくれますか
基本的に全てのことを二人でやるのですがSHIROMAというのは”城間のデザインをどう生かすか”ということを考えてやっています。もの作りの過程としては城間がシーズンでラフ画みたいのを描き、それに対して僕が「こんな感じでやろうか」みたいな話になる。そこから城間がもっとデザインを具体的に落とし込んで行く。それで「これいいじゃん。じゃ作ろうか」となったものを城間がパターンを引き、出来上がったものに対して僕がトワルチェックを一緒にやって、「この辺のこういう感じをもっとこういうかんじに使って行こうよ」みたいな、それでイメージが膨らんで行く。
グラフィックは僕がやるんですけど、監督みたいな役割ですね。
だから”SHIROMA”は城間のブランドなんですけど、城間が一人でやったら”SHIROMA”というブランドにはならないんです。城間に僕がごちゃごちゃ言うことでSHIROMAというブランドが完成する。それは最初から変わりません。僕は城間のデザインをどういうふうに崩したり、遊んだりしてSHIROMAにしていくか、そういうことをいつも考えています。
―西家さんがSHIROMAというブランドをディレクションしているのはわかりました。では城間さん自身はSHIROMAというブランドをどういったように理解しているのでしょうか
僕がディレクターなのでデザイナーはそういうことはわからなくても良いと思っています。SHIROMAのブランドの方向性は僕だけがわかっていれば良い。
―テーマを決めて服作りをされているんですか
テーマは後で決めています。僕が城間の描いたデザインから自分の中で関連性のあるトピックを選ぶ。本当は言葉にしたくはないんですけど必ず「テーマはなんですか」と聞かれるので最後にタイトルは決めます。
僕は漫画を描くんですけど漫画を描く時もタイトルは先に決めないで全部描いてからタイトルを決めるんです。
―漫画・・・・ですか
そうですね。僕、漫画家になりたいんです。漫画に対する熱は本気ですね。
だからデザインではなく漫画に例えると凄くわかりやすいんですけど、漫画って僕が想像しない結末になってほしいんですよ。「こんな結末だったんだ」みたいな漫画にしたい。だからタイトルを決めずに描く。予想もしない結末になった時に最後にタイトルがつくみたいな。服もそんな感じなんです。「SHIROMAってどんなブランドなの?コンセプトは?」ってなった時にあんまり言葉にしたくなくて「城間の作る服です」しか説明のしようがない。だからプレスの人は取り上げにくいと思うんです。
今回の(支援枠の)審査に出した資料もコンセプトにはあまり触れず「丸みがあるものを幾何学的な染めで鋭角的に見せる」みたいな技法だったり、おおまかなまとめの説明だったりが中心になっています。
結局「SHIROMAってなんなの?」ってなったら「城間がデザイナーのブランド」なんです。だから城間を知らない人はわからないんです。でもそれでいいんです。言葉で説明出来ない方が良いと思うんです。
―ショーをやったことがないのでわからないかもしれませんがショー後には囲み取材があってデザイナーはプレスの方にテーマやコンセプト等の質問攻めに合うと思いますがそのスタンスで大丈夫ですか
本当は喋りたくないんですけどね。でも僕は城間には喋らせません。彼女はSHIROMAのデザイナーであってディレクターではない。だからインタビューにはディレクターである僕がこたえます。
―ここ最近のショーでもそうでしたが震災に関する質問も必ず出てくると思います
正直今までは「ファッションで何が出来ますか」って聞かれても「そんなん知るか」って気持ちでやっていた。でも震災後に仙台で受注会をしたのですがそんな時にも関わらずたくさんのお客さんが来てくれたんです。震災で何日間もお風呂に入れなくて、やっと好きな服が着れて、涙が出たみたいな人がいて、ぐっとくるものはありましたね。
―そういう時でも不必要な、ラグジュアリーなものであるデザイナーズブランドの服を必要とする人たちがたくさんいるんですね
そうですね。お金も仕事もないのにうちのレザーを買おうとしてくれたりする人もいました。そういう人たちは多分服が本当に好きなのでそれをなくしてしまったら乗り越えられないんじゃないのでしょうか。それに地震のことより地震があることで服が買えない、そういう心配をする人もいました。震災直後で人なんか集まらないと思っていたのですが「僕らの服を一生懸命受け取ってくれる人っているんだなー」って、そう思いましたね。
音楽好きな人がつらくなった時に音楽が聞きたくなる、そんな感じと似ていて服が着たくなるのかもしれません。2時間かけて受注会に来てくれた子もいたし、「俺なんか福島からだぜ」って言って来てくれた人もいましたし。
―今後の展望に関しても少し聞かせてもらっても良いですか
ショーをやるからこれからどうしていこうとか、そういうことは特に考えていません。本当はもっとやりたいこともあるんですけどどうしても資金不足でやりきれないこともある。今までは媒体の人は見に来てくれても面識ある人ですら見向きもしてくれなかった。載りたくないわけではないし、どちらかといえば載せてくれた方がありがたい。
このショーを通して僕らのブランドのことを知ってくれる人が増えてほしい。今までやってきた服として評価されるブランドになりたい。
ただ僕たち的にも今後はもう少し攻めていきたいですね。ものづくりのベースは多分今までも、これからも変わらないんですけどアイテムだったり、もう少し攻めたものを作って行きたい。どうしても今までは売らないといけないものしか作れなかった。20万くらいするレザーも「誰が買うの?」と思うかもしれないけどそれも着心地だったり、機能性とかも考えてちゃんと”売る”為に作っている。だからそういうのを無視したようなものも毎シーズンいくつか作って行きたい気持ちはありますね。
僕はいつも思うんですけど、僕らは好きな物がとにかく偏っている。今まで生きてきた中のセンスで作ってるだけのもの。それを特にこれからどうしようとかはないんですけどただもう少し人が面白がってくれるものを作ってもよいのかなって、そう思っています。
―最後に初のショーへ向けての意気込みを語ってもらえますか
ショーだからどうということではなく、毎回結構意気込んでいるのでそのままやれたらいいと思っています。