ブリュッセルを拠点に活動をするCHRISTOPHE COPPENS。ベルギー王室王妃のためにデザインも手がけていることでよく知られているクリエイティブブランドだ。今年20周年を記念して来日し、特別展示が行われていたRooms23の会場には1点もののオートクチュール作品も数多く並んでいた。そんな彼の創造力の源泉に迫るべく、話を伺った。
―まずは今回のrooms23で展示されていた2012S/Sのテーマを教えてください。
まず最初に私はストーリーを考えることから始まります。今回考えたのは世界中のどこにも存在し得ない部族を作り出すことです。私にとってアクセサリーや服もそうですが身に着けることは習慣であったり、慣わしであったりもしますが、それと同時に儀式でもあると思います。そうした中で儀式と部族を想像して自分で作りました。そこで決まったテーマが「woman of the fields」です。イメージビデオで表現していますが、朝が始まり日が暮れて夜になるという一日の流れを表しています。ですので、今回のコレクションのカラー展開も朝が始まるときのような色を表現してみたり、また夜になっていくときのような色合いを取り入れています。このビデオの中でRoisin Murphyが部族の格好をして出演していますが、実は彼女はわたしのコンセプトを聞き、この世に存在しない言葉で歌を歌ってくれています。
―なぜコレクションを作る上でストーリーを考えるようになったのでしょうか
デザイナーになる以前、舞台で演出・役者両方していたのですが恐らくこの舞台での経験があったことが関係して、現在創作する上で必ずストーリーを作るようになったのだと思います。そしてそのあと帽子を作り始めてこの業界に進出しました。
―CHRISTOPHE COPPENSの作品には自然界(虫や動物など)のものをモチーフにした作品が多くあるように感じます。ご自身では意識されているのでしょうか
私にとって自然とはなくてはならないもので、コレクションを行なうたびに人の手や虫がでてきますがそれは自分にとってとても自然なことです。それがなぜかと問われても、自分ではわかりませんでの心理学者に分析頂いた方が良いかもしれませんね(笑)。本当は自己分析しておくとよいのだと思いますが、この仕事を始めてから今に至るまでずっと慌しくしていたので自分自身を分析するのに時間がありませんでした。どちらかと新しいことを考えることに力を傾注してしまうタイプだと思います。ただ2011年の12月に本を出版する予定ですが、その中では私の内面を掘り下げた、心理分析のような内容も含まれると思いますのでもしよろしければそれに期待ください。
―その本は興味深いですね。話は変わりますがブランドの創立から20周年目を迎えましたが始めた当初と比べて何か変化はありましたか。
何も変わっていません。私はいつも初心の気持ちというか、常に新しいことに挑戦するという意気込みで今までずっとやってきました、それはこれからも変わらないと思っています。
―やはり常に新しいことに挑戦するということは意識されているのでしょうか
すぐに退屈してしまう性格なんです。縫製などの技術以外は全て忘れるようにしています。ただもし年をとって新しいことが思いつかなくなってきたときには、代わりの人を雇ってやっていこうと思っています(笑)。でも今のところは大丈夫のようです。
―これまでに印象に残っている作品等はありますか
個々の作品というよりは活動が印象に残っています。dollhouseという展示を3年間に渡り3部作でベルギーとオランダで行いましたがそれが自分の中で印象に残っています。あとは2005年に初めて行ったオートクチュールコレクションです。この時期も自分にとって大事な時期だったと思います。そして2008年にno referenceというオートクチュールでのインスタレーションを行なったのですが、これは本当にゼロからのスタートという気持ちでオートクチュールの原点に立った展示なので思い出深いです。それにRoisinとの仕事も印象に残っていますね。彼女のワールドツアーのために作品も作りました。
衣装を作ることは商品とインスタレーションやそういった活動とは別の満足感があると思います。帽子を作るということは自分にとっては職業であり、自分の技術を最大限駆使して粛々と制作をしてお客様に喜んでもらうということなのです。
―そもそもどうして帽子を作ろうと思ったのですか
最初に舞台の演出をしていたと言いましたが、当時行なっていた演目の中で私がイメージしていた帽子がなかなか見つからなかったということがありました。そこで初めて自分で作ったのが最初のきっかけです。
―最初から帽子を作る技術を持っておられたのですか
まったく作り方がわかりませんでした。村に86歳のおばあさんがいて、その人が帽子を作っていたので「帽子の作り方を教えてください」とお願いしました。しかし「もう年だから」と断られてしまったんです。私も必死だったので何とかお願いして、「じゃあ口答のみで説明するから」と承諾を得て毎週土曜に1日2時間程度教えて頂けることになり、そして気がつけば1年という月日が経過していました。
―元々何か作ったり、手作業が好きだったんですか
そうですね。13歳のときには自分の家の屋根裏部屋にアトリエを作って遊んでいて、16歳のときには場所を借りてきて展示を開き、18歳のときには詩などを書いて出版したりもしました。もちろん今と比べれば未熟なモノばかりでただ展示会がしたくて作ったモノですが、子供の頃からそういう活動はしてきました。
―俳優もやられていたようですが俳優になりたいとは思いませんでしたか
特に思ったことはないですね。何かにとらわれることなく本当にあれこれ色々とやりたいと思っているので。
―Christophe Coppensの作品は奇抜なものが多いですよね。しかしその中で美しさも感じます。日本では奇抜なだけで美しいとは思えないものが近年増えてきているように私は思っています。この美しさというものが付随するか否かの違いについて何か思うことはありますか
現代は何でも出来る時代だと思うのですが、大事なことはその中で自分がやることに対しリスペクトしているかどうかだと思います。リスペクトとは伝統であったり、自分が行なってきた過去であったり、その気持ちを持っているかどうかが分かれ目だと思います。私は自分のことは伝統的で古い人間だと思っています。
―しかしそれは常に新しいことをというスタンスと矛盾してしまう気もするのですが
私は奇抜なものの中に伝統的な技術を使っています。そこに一つの安定があるのです。今奇抜なものを作ろうと思えば変なものを集めて変なものにコラージュすればすぐにできる、ただそれで終わりだと思います。なぜならそこには”魂”や”リスペクト”が無いからです。何も考えず創作するのではなく、よく考えて創作することが必要ではないでしょうか。そして的確な技術でものを作ることがとても大切だと私は考えます。
―最後に若い世代の方にメッセージをいただけますか
いっぱい働きましょう。あと目上の人の忠告を聞くことも大事です。ただそれを聞いたうえで自分のやりたいことをやり遂げようとする思いと、学び続けようという勤勉さが大切だと思います。私は学校を割りと早く終えてしまったんですけれども、必要な知識は学校を終えてから得たものばかりなのでやはり自分で学ぶという意欲がなにより大切だと思います。
Interview & Text:Fumiya Yoshinouchi, Masaki Takida Photo:Tomohiro Horiuchi
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CHRISTOPHE COPPENS (クリストフ・コパン)
ベルギー出身のクリストフ・コパンは1992年よりレディスの帽子コレクションをスタート。
その独創的な作品からヨーロッパを代表するクリエイターの一人となり、ベルギー王室御用達の帽子デザイナーとしても活躍している。
現在では帽子の他にストール、コサージュ、ネクタイ、手袋、なども手掛け、トータル・コーディネートを提案、またインテリア、アートにも携わり、美しく気鋭な作品を発表している。
HP:http://www.christophecoppens.com/
常時取り扱いショップ:destination Tokyo
http://www.hpfrance.com/Shop/Brand/destination_Tokyo.html