「コミュニティ化という部分だと思う。でも彼の場合はそういう舞台じゃないところで世界的な舞台に立ってしまった。」
―洋服を作るにあたってリサーチはしたんですか
西山:怪獣やゴジラなどをリサーチし直したという感じですね。モンスターハンターをやったことは無いんですけど攻略本は好きで見ていました。恐竜も好きではないのですがキングギドラが好きです。ウルトラマンで言えば敵の怪獣の方が好きですね。
坂部:ここまでコンセプトを立てないやり方は逆に今っぽいのかもしれない。僕達であればかすっただけのモンスターハンターをテーマにすることはない。でもそれで堂々と面白いものを作っているというのは深いコンセプトを立ててやるというやり方というよりも好きなモノをどんどん混ぜていったということですよね。
西山:ちゃんとテーマを立てて作ったのも今回が初めてなんです。
坂部:でも話を聞く限りテーマ作りをちゃんとしているという感じではないね。
―最初からモンスターハンターをテーマにしていたんですか。それとも結果的にモンスターハンターという言葉が浮かんできたのですか
西山:最初からモンスター系をやろうと思っていました。だからディテールをポンポン入れていた感じなんです。それで山縣さん、坂部さんと話をしていたら「サラリーマン」というキーワードが出てきてそれを合わせようと。だからはじめからちゃんとテーマが決まっていたわけではないのですが徐々に手探りでやっていってその結果という感じですね。
坂部:これを普通言葉だけで伝えられたら凄く弱い。でも彼はその時点で服を持ってきていた。考えるより先に服が出来ていくというか。好きなもののイメージはあると思う。でもそこに理由が無い。
西山:僕はデザイン画も描かないでパターンから始めるんです。
山縣:完成図は見えてるの?
西山:パターン上で考えています。だからパターンは物凄く時間がかかります。
山縣:パターンを考えている時は楽しいの?
西山:楽しいですね。そこで全てが決まるので。小さい頃から細かいものを作るのが好きだったんです。
山縣:プラモデルみたいな感覚だろうね。
西山:そんな感覚だと思います。
山縣:僕にはそういう意味では男的感覚がないんです。プラモデルにもフィギュアにも興味がなかったし。
もし作るところを自分のライフスタイルから取り払ったら何をしているの?
西山:ずっとぼーっとしているかもしれないですね。美術館に行くこともないですし。
―受賞した時の親の反応はどうだったんですか
西山:母親はノミネートの時から凄く喜んでくれました。父親は「いつまで作りつづけるんだ」みたいなことを言ってたのですが賞を獲って「おめでとう」って言ってくれました。
―服飾史等は勉強しましたか
西山:あまり詳しくないですね。
坂部:やっぱり新しい世代の感覚だと思う。今の若い人達って例えばCasetteplayaってデザイナー自身が象徴的なんだけどそのデザイナーのことを知らないで洋服を買っている。服そのものを気にいって買ってもその背景を全く調べない人達が多いと聞く。僕らの時代で言えばW&L.T(ウォルター)なんだけど洋服が好きになったら背景を必ず調べていた。高い洋服を買うからその背景を知りたいというのが時代的にあったけど今の子はそこまでもいかないひとが多い。そこが凄く変わって来ている。
西山:僕も調べないですね。
山縣:そういう意味ではこれがオリジナルなのかコピーなのかそういうのも昔だったら背景を調べるということは客観的に相対的にこのブランドはどうなのかっていうことを知る部分でもあるんだけどそれをやらないから自分の範囲内でこれが新しかったら新しいってなるんですよね。
坂部:自分の範囲を決めるのはコミュニティで。
彼は確実に新しい世代だと思います。今のデザイナーの新しいタイプとして取り上げなければいけない。そうなると一番弱いのがコミュニケーション能力。他のことに興味がないからコミュニケーション能力が弱くなってしまう。デザイナーとしてというのは別に色んな人とのコミュニケーションをまだ図っていない気がします。
―プレゼンテーション能力も足りないですよね
坂部:そこは間違いなく欠けてますね。こんなに無いのかってくらい。でもそういう世代なんだと思う。
―海外の人は逆に微妙な作品でも納得させるだけのプレゼンテーション能力がある
坂部:そこはもう完全に違う。彼がもし同じ作品を作ったら海外の人には絶対に勝つことは出来ない。
山縣:プレゼンが出来ないというのはポジティブにはならないですよね。
坂部:彼は外にもそんなに出ないし、遊んだりもしないし欲もない。でも人に作品を見せたいという欲はある。そこが不思議なんですよね。
―誰に自分の作った服を一番見てもらいたいのですか
西山:・・・・。
坂部:特に誰でも無く色んな人?
西山:そうですね。知っている人に自分の作品を見てもらって「見たよ」って言われると嬉しいですけど。
―同世代にはマイクパフォーマンスをして人気を集めているデザイナーもいますがそれはどう思いますか
西山:自分がそうなりたいとは思いません。
坂部:作品作っていてストレスで眠れなかったりとかはあった?
西山:ストレスは感じますがずっと寝ずに作品作りをしていたのでそういうことはなかったです。
坂部:ストレス解消はどうするの?
西山:ひたすら作品を作るしかないですね。
―日本のファッション業界やファッション業界の今後などに興味はありますか
西山:特にありません。
―どんな音楽が好きですか
西山:Linkin Parkとか好きです。日本の音楽で言えばHip Hopですね。キングギドラなどが好きです。
―キングギドラ繋がりで聞き始めたのですか
西山:それはあるかもしれません。
坂部:野心が無い分人にぶつかっていくということはしないのかも。ここのがっこうでこいつには負けたくないと思ったりした?
西山:みんなに負けたくないと思っていました。
―メールとかはしますか
西山:面倒くさくなってすぐに返さなくなりますね。
―将来のビジョンはありますか
山縣:そこはやっぱりインタビュアーに必ず聞かれるところだと思うけど結構曖昧な答えしか返せてないんです。ブランドを立ち上げたいというのは勿論言ってるんですが。
坂部:だからある意味そこがキーでもあると思うんです。インタビューで書くことがないというよりも考えていないということをキーにしなければいけない。
―でもそういう彼が専門学校を卒業してからここのがっこうにまで行ってITSを目指したことはある意味驚きですね
西山:かなり負けず嫌いではあるんです。でもあまり言葉が出てこないんです。
坂部:極端な話だけど彼がこれからのファッションの中心だとする。そうなってきたらどうなるのだろうか。こういったコンセプトの立て方も僕らからしたらありえないくらいゆるい。その中でここまで徹底したものを作って凄く個人的なモノになってきている。ファッションや哲学にも興味無いし服装史も知らない。お店にも興味が無い。その世代の人達がこれからの中心だとしたらどう動いていくのだろうか。
山縣:コミュニティ化という部分だと思う。コミュニティで自分達の価値観でOKだったらOKという心地が良い部分でやっていく。でも彼の場合はそういう舞台じゃないところで世界的な舞台に立ってしまった。
坂部:そこが矛盾しているんですよね。
山縣:予想してないけど獲っちゃったみたいな感じですよね。なんとなくITS凄いからやってみようみたいな感覚でやったら獲れちゃったみたいな。
―ITSの受賞も周りが騒ぐほどそんなに気にしてなさそうな感じはします
山縣:今までCollection of the Yearを獲った人はその後天狗になっている人もいたそうです。でも彼は変わらなそうな気がする。ある程度文脈とか色々考えていったらもっと社会的なポジションとかを見ようとすると思うはずだけどそういうのを断片的にしか見てないから面ではない。今までの人であればある程度面で見ているから。
坂部:ファッションを今まで勉強してきた人達には圧倒的にそっちのタイプの方が多い。こういう断片的なタイプでここまで大舞台に立てる人は今までいなかったんです。