「チャレンジしているデザイナーだから彼の作品を理解出来た。どのコンペもそうだけど実力だけでなくタイミングというのも凄く大事」
―賞の審査基準自体が海外と日本では全然違いますがもし彼が仮に日本でのコンペに出したら賞を獲れると思いますか
坂部:多分通らないと思います。日本では素材が凄いだけのものが評価されたり抽象的な作品が評価されたりしますよね。
山縣:実際に彼は出していますが全て審査に落ちたそうです。
西山:色んな賞に出し続けたのですが・・・。イタリアに行く前にオンワードに作品を出したんです。全く同じものをコピーして。裏にちゃんとITSのファイナリストに選ばれましたという新聞も貼ったんですが審査には通りませんでした。
―日本のコンペと海外のコンペの大きな違いはなんですか
山縣:たくさんあるとは思うんですがまずは審査が一元的であるという点ですね。デザイン画のみとか一体で審査するとか。審査員も視点がばらついていない。デザイナーばかりを揃えている。向こうはポートフォリオのバリエーションも多いし、審査員もインターナショナルに揃える。年代もファッションのテイストも様々で。ポートフォリオ審査は一冊でコレクション全体の革新性をどう見せるかというのを見てくるけど日本の場合は一発勝負。あと日本はファッション性を評価する部分が薄い。向こうは今の時代に対してこれがどうなのかという考え方をするけど日本は単純に実験的な部分が評価される。実験したからと言ってそれが時代的にどう見られるかというのは評価されないところがある。海外はもっとコレクション全体で見るのとファッション性で見るというのが日本との大きな違いだと思います。インターナショナルレベルでイタリア、フランスにコンペがあるということはやっぱり世界の軸になりやすい。美意識とか価値観が軸となりやすいからそこでコンクールがあるということ自体やっぱり社会的影響力があると思う。
―イギリスには逆にそういったものが無いですよね
山縣:ただセントマの卒業ショーがLondon Fashion Weekに組み込まれてstyle.comに載るという時点でそういうことなのかなって。(TopShopのサポートする)New Genもあるし,Fashion East, Fashion Fringeもある。そういう意味では若手に対するしっかりとした土壌が出来ている。
坂部:でも残念ながらビジネスが育つ場所ではない。若手にとってブランドを立ち上げやすい場所でもあるし世界的な雑誌が集結しているから日本の雑誌とは比べ物にならないほど注目度が大きいのに。
―ただそういった若手の作品を扱う場所はロンドンにすらないし、ヨーロッパにはほとんどありません。ブランドも出てきてはすぐに消えてしまう
坂部:だから結局アジアがそういった面では優れている。お店があるから意外とブランドが生き残ることが出来る。
―二人ともITSで賞を獲っている(ITS#3, ITS#5)。だから多少なりとも勝ち方というものはわかっていましたよね。どういったことを教えたのですか
坂部:でもグランプリを獲れるなんて全く思ってはいませんでした。ノミネートさせるまでは色々な作戦を練りましたが2人(山縣と坂部)の相談もあるし西山君の意見も尊重しなければいけない。当然だけど彼のクリエイションを操作することは出来ない。ただ彼の持っている中で「この部分を見せていこう」といったことはアドバイス出来ますよね。
―それはどういったアドバイスだったのですか
坂部:客観的に彼の作品を見る事が出来るのは僕達の方が出来る。例えばヨーロッパの人達が彼の作品を見たらどこまで彼の作品を“モンスターハンター”と理解出来るかとか。
―西山君に欠けていた部分とはどういったところだと思いますか
坂部:ファッション感ですね。マニアックだけどファッション的じゃないところも好きだったから、ちょっとシアター寄りになったりとかやらなくてもよいようなデコレーションをやってしまう癖はあるけど、その中で光るものがある。だからそこでのバランスを自分で見ていければどんどん良くなる。
―山縣さんは最初に西山君の作品を見た時はどう思ったんですか
山縣:僕は(アドバンスドの前の)プライマリーコースから彼の作品を見てるから少し視点が違うんですけど欠けてるなと思ったのは彼自身のクリエイションですね。ここに来るまでは(現EKAM)三木勘也さんを意識していたから。三木さんに憧れすぎてそこの世界だけでクリエイションをやっていた。だからそこを指摘して「そうじゃないものを見たい」ってずっと彼に言い続けました。それで服を持ってきて「これは三木さんがやらないところだよね」って指摘するところから始まりました。
―専門学校時代はどんなものを作っていたんですか
西山:まさしく山縣さんが言った通りで三木さんの作品が好きすぎてその影響を受けた作品しか作れていなかったと思います。文化の卒コレで三木さんの作品のようなものを作ったんです。鉄パイプを使って。それを見た三木さんの知り合いが三木さんに紹介してくれてEKAMの展示会を手伝わせてもらいました。
山縣:会った時どういう気持ちだったの?
西山:「やばい、三木勘也だ。格好良い」って。
―世代的にそことは違うと思うのですがどうして彼の作品を好きになったのですか
西山:授業で2002年のアントワープのDVDを見たんです。それで「この人半端ない」って。
山縣:その繋がりも面白いんですよね。僕ら当時の学生にとっては伝説的な存在だったけど彼の年でその話をしても多分誰も理解してくれない。EKAMの名前で知っている人は勿論多いと思いますけど。
―普通に考えたら彼の年で影響を受けるのは今の日本で活躍している海外帰りのデザイナーさん達ですよね
坂部:僕らはAngelo Figusや三木さんに強く影響を受けた。その流れで瀬尾さんが来てeatableの新井君や唯馬君などが続いた。
―それまでは特別アントワープに興味があるわけではなかったんですか
西山:アントワープすら知らなかったですね。それまではファッションにすらあまり興味もありませんでしたし。
坂部:なんでファッションに興味をもったの?
西山:親がファッションの会社で働いていたので小さい頃から絵を描いていたんです。それでファッションデザイナーになりたいと思っていました。ただファッションのことは全く知りませんでした。ジョン・ガリアーノが一番最初に好きになったデザイナーです。
坂部:ファッションやったらもてるかもという考えはなかったんですか
西山:それはなかったですね。
―そこまで憧れて、アントワープに行きたいとは思わなかったのですか
西山:思っていましたがお金の関係で行けなかったです。なので1年前に専門学校を卒業してからここのがっこうに通いだしました。
―ITSに行って見て他の人の作品と比べて自分の作品はどう感じましたか
西山:クリエイションはみんな自分よりレベルが高いなって思いました。
―逆に自分の方が他より優れていると感じた点はどこでしたか
西山:衝撃度は自分の方が上だと思いました。
―今回の受賞には審査員がViktor & Rolfだったという部分も大きかったと思いますか
坂部:それは絶対にあると思います。チャレンジしているデザイナーだから彼の作品を理解出来た。逆にミニマムなモノが好きなデザイナーであればNGだったかもしれない。どのコンペもそうだけど実力だけでなくタイミングというのも凄く大事。実力だけではどうしようもならない時もあります。
西山:Viktor & Rolfは2人なので一人ずつが審査を出来、その2人ともが僕に票を入れてくれたみたいなのでそれも大きかったんじゃないかなと思います。
―Viktor & Rolfと会話をする機会はありましたか
西山:一緒に写真を撮りました。
坂部:そこが英語が出来ないと損な部分ですね。
続く
オンワードのってファッション大賞?
全く同じ物を出したら要項に引っかかって選ばれないのは当たり前のような・・