Interview

SHUN OKUBO 3/4

“控えめなもの、静かな中の美しさに凄く惹かれますね”

―なぜ日本に帰国しようと思ったのですか

それは成り行きだったんですね。本当はHaiderがRaf Simonsを紹介してくれるということだったのでRaf Simonsのところに行こうと思っていたんですね。でもビザの問題で帰国しなければいけなくなったので帰ってきました。

―帰る予定で帰ってきたということではないということですね

そうですね。向こうで会社立ち上げるくらいの勢いだったんですね。

―具体的なプランなどはあったのですか

そんなに焦っていなかったんですけど2008年くらいにパリで立ちあげられたらと思っていました。僕はのんびりしているので。パリにいる時に三木 勘也(現Ekamデザイナー)さんのブランドのお手伝いをさせていただいた時もあるんですけど彼にも影響は受けているのかも知れないですね。人出がいない時に手伝ったり、グラフィックをやったりしてみんなで撮影行ったりとか。その時にチームの仕事っていいなって思いましたね。

パリにもまた出たいとは思うんですけど今はその時期じゃない。今はもの作りに集中したいんですよね。それしかやりたくないというか。ベースを作らないとちぐはぐになってしまうので。

―ブランド立ち上げ当初は海外での取り扱いの方が多かったようですが最近も海外の取引先は多いんですか

ここ半年くらいはほとんど海外はやっていないですね。以前はColette, Kokon to Zai, 韓国やNYのショップなどでやっていました。

―今までの取引先はどうやって探されたんですか

自分で直接アプローチさせてもらってやっています。

―日本で初めて展示会を行ったのはいつですか

2008年の3月ですね。ユニットというクラブの小さいほうのラウンジでやりました。

―それからは完全に日本メインでやられていたんですか

その時はたまたま日本で展示を行ったのですがまだパリをメインに活動していてその次のシーズンは日本でやらなかったんですよね。

―本格的に日本にシフトしたのはいつですか

昨年の秋ですね。ルームスに出してそこからですね。



―なぜルームスに出展しようと思ったのですか

やっぱりまずは日本で基盤を作りたいなと思ったんです。海外は凄く取引が不安定で、支払いもそう。あまり会う機会も無いですよね。日本だったら会おうと思ったらその日に会える。それにまず経済的なところが大きいですね。人出も無いですし。海外に行ってしまうとこっちが誰もいなくなってしまう。チャンスも潰すしビジネスとしてもどうなんだろうって。まずは住んでいる場所で会社をもう少しだけ大きくして信頼できるスタッフを置けるくらいになったらもう一度海外に出そうと思っています。

―twitterで日本と海外の取引の違いに関してつぶやかれていましたが具体的にどのような部分でそう感じたのですか

日本は委託販売が大きいんですよね。海外は委託でやっている場所は無かったんです。バイヤーの意思決定の力も違いますよね。例えば展示にたくさん人が来て「欲しい」と言ってくれる。普通海外ならそこで契約が決まるんですよ。だけどそこでオーダーがつかないんですよね。帰って会議にかけて本当に欲しいとてなれば買うという形なんですよね。慎重なのはいいんですけど慎重すぎて肩透かしということもあると思うんです。

―twitterをやられていますがtwitterの存在で何か変わられたと思うことはありますか、また何かやりたいと思っていることはありますか

今のところはないですね。ただこうやってみられているんだって言うのはわかりました。メディアを面白く使いたいなというのはありますね。見てくれる人もいっぱいいますし。Youtubeとかでも自分のチャンネル作って動画をどんどんアップしようかなって思っていますね。古くなっちゃいましたけどweb2.0という世界は面白いなって思いますね。みんなが構築していく世界というかトピックがあって、レスしてみたいな。Twitterは特に速報性があるので。どうやって使おうかなとは色々考えています。

―今ってファッションでも情報を見せない時代ではなくてあえて情報を全部出すくらいの時代になって来ている気がするんですよね

確かに。ファッションショーのウェブ中継もそうですよね。

―昔は本当に限られた一部にしか情報が伝わらなかったじゃないですか。元々のきっかけはstyle.comがウェブでランウェイの写真をアップしたというのが大きいと思うんですけど。Twitterはそういう意味でも色々な可能性を秘めている気がしますね

そう思いますね。有名人じゃなくても面白い人はいるのでその辺が掘り返されるというか全部透明になってくるというかそれが面白いですね。

―Youtubeもそうですけど有名じゃなくても誰にでも何か可能性があるというか

そうですね。無名な人の方が好きなんですよね。自分の中で好きな言葉があるんです、「有名な人の歴史より、無名な人の歴史に敬意を払うほうが難しい」という。全ての歴史の構築というのは無名な人の歴史にささげられるというウォルター・ベンヤミンという人の言葉なんです。僕は無名な人達の歴史の裏に隠れた様なこっそりとひそかに輝いているものが凄く好きで、抽象的なやり方ですけどジュエリーも人が気付かないような小さなことをクローズアップして何かに落とし込みたいと思っています。今まではダイヤモンドとか金とか銀とかそういうものがジュエリーとしてクローズアップされてきましたけどこれからはもっと本当に木の欠片でもいいし、プラスチックでもいい。そういう物の良さをもっと引き出して価値を与えていきたいと思います。

―ジュエリーで影響を受けた人はいますか

コンテンポラリージュエリーの人がやっぱり好きなんですけどクロール・シュミット(Claude Schmitz)という人が凄く好きですね。その人のコンセプトというのはミニマルバロックといってミニマルだけど装飾を感じるというものなんです。錆が装飾になっていたりするんですけどそういう控えめなもの、静かな中の美しさに凄く惹かれますね。これみよがしな装飾というのは好きではないんです。

―デザインをする上でコンセプトや考え方は重要だと思いますか

思いますね。例えばGallianoとかはかなり右脳的というか直感的に作っている部分が多いと思うんですけど僕はもうちょっとコンセプトなど冷静に考えてものにしたいですね。だから直感を使う部分は本当に最後の最後だけですね。厳密に言うとその繰り返しなんです。データだったり、絵画を見てなんでこれは美しいのだろうかということを考えてその絵をそのまま形にするのではなく、なんで美しいのかを理解して考えた上でその概念をジュエリーに落とし込む。僕のコレクションの2回目ってMax Ernstの絵画から来ているんです。彼の作品の何が面白いかというと同じ部屋の中に鯨がいたり、熊がいたり、鯨って凄く大きいのに同じ部屋にいるってあり得ないじゃないですか。この絵というのはスケールがちぐはぐだっていうところとモチーフがちぐはぐだっていうところと一点一点に意味があってコウモリや蛇などは性的なことを暗示していたりしています。木は神聖さを暗示してたりそういう意味も全部ちぐはぐだったりするんですよね。僕もジュエリーでそういうちぐはぐさだったり、スケールの違うものをあのコレクションに入れて作ろうと思ったんです。ただちぐはぐさって言うと何でもありなんじゃないのかと思ったりするんですけどやっぱり組み合わせで美しい、美しくないというものが出てくるわけでコンセプトがあってラインナップを決めてそのラインナップは本当に美しいのかどうかというところは直感なんですよね。

―無からデザインが生まれることってないですよね

難しいですよね。デザインは無からは生まれないんじゃないですか。

―無と思っていても生きている上での積み重ねから生まれてくるものですよね

そうですね。人間が使うものですし結局美意識というのは人間を通して初めて知覚されるものでやっぱり無というのはありえないですね。植物だってかなり究極に近い形の合理性に基づいて出来ていたりするので、それも無じゃなくてかなり意味がある形になっているんですよね。太陽の光をキャッチ出来やすい形になっているとか。そういう意味があってかつ美しいということもありますし。無ということはあり得ないかもしれないですね。ただ洋服を作る時にその美しさを利用するってなった時にそこはデザイナーさんの審美主義というかどういう美しさを持ってくるかということに拠ってくるとは思いますけど。

続く

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