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TAKUYA KIKUTA

菊田琢也 / TAKUYA KIKUTA

1979年山形生まれ。縫製業を営む両親のもと、布に囲まれた環境のなかで育つ。2003年筑波大学卒。在学時にファッション研究を志す。その後、文化女子大学大学院博士後期課程を修了(被服環境学博士)。現在、文化学園大学非常勤講師、女子美術大学ライティング・アドバイザー。近著に「アンダーカバーとノイズの美学」(西谷真理子編『ファッションは語りはじめた』フィルムアート社2011)、「やくしまるえつこの輪郭 素描される少女像」(青土社『ユリイカ』第43巻第13号2011)など。

E-mail: tak.kikutaあっとgmail.com

You can’t always get what you want

音楽を聴くという行為はあくまでも個人的な体験である、と言ったのは僕の友人だ。
大江健三郎のタイトルを引用したその言葉は、何ものにも代え難い価値について示唆している。
例えば、ある子の鞄にはダッフィーのストラップが付いている。
それはお洒落なのか、流行りなのか、それとも思い出の品なのか。本当のところは彼女だけが知り得ること。
ファッションとは流行現象だ。けれども、そこには無数の「個人的な体験」が溢れているのではないだろうか。

下記に掲載するのは、冒頭の友人が書いた文章である。
これから不定期的に紹介していきたいなと思っております。何かしらの連鎖反応が生まれることを期待して。

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依田健吾による不定期連載「クローゼット・ファンクラブ」第1回

ファッションに興味のある人なら、一度はミュージシャン、あるいは音楽に密接なファッションに心を奪われたことがあるだろう(と思う)。
モッズ、パンク、ヒップ・ホップのように様式化されたものはもちろんのこと、現在もファッション・アイコンとして伝説となっているミュージシャンを挙げればきりがないし、知らず知らずのうちにそうしたポップ・ミュージックから派生したファッションを取り入れていることも少なくないはずだ。

我々にとって最もリアルなポップ・ミュージックであるロックが誕生してからもうすぐ60年が経とうとしているが、その中で最もキャリアが長いバンドといえばRolling Stonesだ。
初期リーダーであるブライアンのファッションセンスはもちろんのこと、ご存じミックやキースのカリスマ性で強引にかっこよく見せるスタイルも見逃せない。
彼らを見ると、我々が一生懸命コーディネートを考えたり、ファッション雑誌をめくったりする行為そのものが「才能のなさ」の証明となっているようで、ほんの少しだけ自分が惨めな気持ちになる(あくまで「ほんの少しだけ」だ)。

さて、そんな巨人二人とデビューから一貫して活動を共にしているチャーリー・ワッツという男をご存じだろうか。ジャズに影響されてドラムをはじめ、名実ともに世界一のロック・バンドであるストーンズに在籍しながらも「ロックは子供の音楽」と公言し、メンバーのファッション・スタイルがその時々の流行に合わせて変わっていく中、一人だけサヴィル・ロウ仕立てのスーツを着続けている(一時期長髪にサイケな服装だったこともあるが)彼こそが、音楽史上最もロックでダンディな男なのではないだろうか。
何より、ミックやキースと涼しい顔をして長年共に存在していること自体が、彼が並の人間ではないことを表している。

巷にあふれる「ロック風」ストリート・ファッションは若さの特権でいくらでも形だけは真似ることが出来るが、チャーリーのアナクロな英国紳士スタイルは仮に100万円つぎ込んでも真似は出来ないし、かといって年齢を重ねたからといって到達することが出来ないかもしれない。
ぱっと見は「渋いおっさん」と見せかけて、チャーリーのそれはかなりハードルの高い着こなしである。

90年代のストリートもゼロ年代のデザイナーズもファストファッションに駆逐され、さらにそれさえもITに追いやられつつある現在、「消費されないファッション(言葉自体に矛盾があるが)」を確立していくことも必要なのではないかと個人的には考えている。

上記のようなファッションの「古きよき時代」を知る私たちは、今こそチャーリーを目指す時なのかもしれない。
(文:依田健吾)

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「(You can’t always get) what you want」は、コーネリアスの曲です。1994年、小山田圭吾はローリング・ストーンズの名曲をカッコに括ることで、別モノへと置き換えた。この「引用」という手法は、渋谷系から裏原系へと引き継がれていくわけですが、今日の日本ファッションについて考える上での、1つの足掛かりになるのではないでしょうか。

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