“「芸術的な美の可能性の追求」とは何かということについてはまだまだ見出せてはいませんが、1つ言える事は、着て頂くことで生まれる人間同士の関係性というものが非常に重要で、実際コンセプトに掲げた事にとても関係している事ではないかと思っています”
→PATRICK STEPHAN 〜人間と衣服。文学的追求〜 1/2
—パリで日本の伝統工芸のエキシビションを見て渡日を決めたということですが。
1998年、アールデコミュージアムで行われた資生堂展です。初めて日本の文化を肌で感じた体験で、ミニマリズムというか「多くを語らず」という日本独自の文化を体感することができました。フランスの文化というのはご存知のとおりマリー・アントワネットのようなデコラティブでカラーのある文化で、それとは真逆の例えば漆のような質感やシンプルといったような日本の文化様式に感銘を受けました。それで結局3回も見に行き、では休みに一度日本に行こうと。それで実際来日して、ここで何かしてみたいなと思いました。そして色々な方と出会い、ブランドをスタートさせました。
—日本に来日した当初ESMOD JAPONで講師を務められていましたが、その頃と今で学生に何か変わったというところはありますか?
去年も卒業ショーを見に来ましたが、ちょっとカジュアルな路線になったかなという印象を持ちました。ただそれはマーケットがそのように変化した事があるのかもしれません。日本のスタイルは独自でクールな面がありましたが、それがカジュアルに変わっていましたね。ただこれはポジティブな意味です。独特のマーケットが日本のクリエーションを支えていると思います。その中で景気が傾いてもファッションが継続されていくということはすごいことだと思います。
—拠点は日本ということでしょうか?
今はパリ、メキシコそして日本を行き来しています。それぞれ違う世界観がおもしろいですね。
—メキシコにも展開されていますが、デザインを変えたりということはありますか?
いいえ。メキシコにはあまり期待を持たずに行ったのですが、若い方々もファッションに敏感で。これからの市場なので、まだまだ発展段階ですが、その環境もあってか個人個人でリメイクなど工夫して服を着こなすということが盛んになっています。日本で作ってメキシコで販売しています。日本の文化にも寛容な事も特徴ですね。向こうに日本人デザイナーを紹介するということもできればいいかなと思います。笑
—日本のファッションについてはどう思っていますか?
元々はCOMME des GARÇONS、Yohji Yamamoto、近年のブランドではUNDERCOVER などしか知りませんでした。UNDERCOVER のインスピレーションはすごいなと思いましたね。パリで見た時も刺激を受けました。日本人のデザイナーも僕の服を買ってくれています。例えばDRESSEDUNDRESSEDもそうですね。そういったデザイナーたちがどんどん前に出て行ってくれたらいいかなと思っています。
また私はティファニー・ゴドイさんと仲が良く、彼女は東京の情報を持っているため色々と教えてもらっています。
—ショーの予定はないのですか?
詳細は決まってないですが、やりたいという思いはあります。
—それはパリでということでしょうか?
多分東京が先かなと思っていますが、まだ分かりませんね。
—ブランドのコンセプト「芸術的な美の可能性の追求」といものはある意味究極のテーマだと思いますが、今期で11年目を迎えられ、今その道中で何か分かってきた事や手応えのようなものがもしあれば教えてください。
簡単に言ってしまうとあれなんですが、実際にここまでシーズンを重ねてきて言える事は、すごくたくさんの方に着て頂いていて、そのことにすごく感謝しているということです。それによって人間同士のコミュニケーションから人間性のようなものを感じ取ることができており、自分としてはまずこの段階で1つの満足感があります。「芸術的な美の可能性の追求」とは何かということについてはまだまだ見出せてはいませんが、1つ言える事は、着て頂くことで生まれる人間同士の関係性というものが非常に重要で、実際コンセプトに掲げた事にとても関係している事ではないかと思っています。僕自身のコレクションのアイテムを着る事で新しい事が生まれますし、着る事で喜んで頂けるというそうした前向きなハッピーな感情を呼び起こす事ができることはデザイナー冥利につきます。人それぞれ生活がありますし、その人の全てを知っている訳ではありませんが、その中に自分のアイテムが入り込んでいるということで友達というか、繋がっているというような感覚を覚えます。これはある意味究極のことだと思います。
—これからも服を通して人間関係を追求していきたいと?
詩的な感覚で考えることが多いのでそこは非常に重要であると思っています。つまり人間性の探求という事になるのかもしれませんね。
HP:http://www.patrick-stephan.com/
Interview & Text:Fumiya Yoshinouchi, Tomoka Shimogata Photo:Koji Shimamura
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