”鑑賞するというよりか体感できるような作品にしたい、と思っています。植物の迫力だったり、自然の一部をトリミングして持ってきた、風景を眺めているような感じだったり”
→フラワーアートユニット plantica “plantica/nomadic” 1/3
―作品を作る際には絵などをかいてイメージしたりするのですか?
商業ディスプレイを作る時は用意します。クライアントとディスプレイのコンセプトを擦り合せて固めてから、絵コンテやCGを描いて、その絵のイメージに近づけるということですね。アートワークであれば、一切イメージをつくらないで即興で創っていきます。大きいインスタレーションになると、イメージを書いても、結局イメージ通りにいかないことが多いんです。植物には、360度見たときに、一番表情が良い角度というものがあるんです。その一番良い表情でそれぞれ配置して組み合わせていく、ことが重要です。だからコンテやイメージに頼らず、創る現場で集中して、それぞれ花の良い顔を見つけながら、ひとつひとつの判断を重ねて、作品を構築していきますね。
―作品つくりの際も“顔”と何度も言っていましたね。
“顔”の向きによって表情が全然変わってくるんです。色んな植物を集めて、集合写真を撮るような感じで、僕はその時はカメラマンのような人なのかもしれません。もう少しこっちを向いて、こんなポーズしてください、そちらは……してください、みたいな。
―その時に使用する花材の分量に関しては、どのように計算されているんでしょうか?
例えば、流木の場合、本当に多様な形状と大きさがあるので、こういう形の方が組みやすいとか、見せやすいとか、ある程度のイメージはあります。その辺に当てはまる材料を拾ってきたりはしますが、最終的な作品の物量と大きさまで、正確に計算することは容易ではないですね。
―花や植物で空間演出をする際に、もっとも考慮していることは何ですか?
planticaでは、大きい作品を得意としていますが、鑑賞するというよりか体感できるような作品にしたい、と思っています。作品がすべて視野に収まるくらいだと、どうしても鑑賞スタイルから抜け出せませんが、大きい作品だと体感することが出来ると思います。植物の迫力だったり、自然の一部をトリミングして持ってきた、風景を眺めているような感じだったり。また風景を眺めつつ、大きい気配を感じたり、また匂いも感じたり。そういう立体的な体験を与えられることができるかなと。
―華道をもっと身近にしたい、色んな人に魅力を伝えたい、という気持ちもあると言っていましたね。
そうですね。それはずっとあります。華道は一般的に知られていて、歴史も長いですが、思ったよりも狭い世界ですし、それを職業としている人は少ない。また、一般的には、華道は嫁入り修行のための習い事や、マダムの優雅な嗜み事など、同世代や若い人には、やや古風なイメージを引きずって持たれている印象がありますね。
planitcaでは、伝統的な華道の流れに新たなレイヤーを重ねたい、と考えています。レイヤーというのは、”表現”と同義語です。約600年続いてきた華道には、色んな先人たちがレイヤーを重ねているからこそ、伝統芸能として成り立っています。伝統芸能にせっかく関わっている身なので、自分が活動している間に、その伝統に一枚新しいレイヤーを、地層を重ねるように、積み重ねることが出来れば、と思っています。
―作品の制作工程も見させていただきましたが、ほとんどの指示は木村さんが出されていますよね。逆に木村さんは材料や作品にはあまり触れていませんでした。
僕一人だけでは、材料を運んで創ることは出来ませんし、作品を構成することもできません。別の例えを使って言うと、僕はオーケストラで言えばplanticaの指揮者みたいなもので、サッカーで言ったら監督かもしれません。一つの作品を具現化させることに向かって、一番調和するもの、迫力のあるものを創り出すために、作品の大枠からディテールまで、数々の指示を出しながらチームワークで創り上げていきます。
もちろん、僕自身も作品に触れて構築することはありますが、大きな作品になればなるほど、一歩引いて作品を創らないと全体感やディテールのパーツが調和しているか、掴めません。大きい作品を制作する際は、現場では誰よりも一番遠くから眺めて、制作におけるポイントを、その都度指示するようにしています。
―スタート当初は2人でしたが、今ではメンバーも5人になっています。増えることによって何か変わったことはありますか?
それほど変わったことはありませんが、単純に出来る仕事の数が増えました。アートワークに関しては、僕がすべてディレクションしていますが、クライアントワークに関しては、僕以外のメンバーが主導権を持って、デザインすることもあります。
また、孤独なアーティストみたいなイメージを持たれるのも、性に合わないので、人数が増えてもplanticaという名目でやっています。もちろん、planticaというクオリティのアウトプットに関して、コントロールするときはありますが、せっかく花に関心を持ち、花に関わった仕事をやっているメンバーが、どうやってイニシアチブ取って、そこで彼らはどのようにデザインしていくのか、なるべくみんなにチャンスを与えつつ、かつ経験をみんなでシェアしたい、そう思っています。
―日本には四季があり、植物にもそれぞれ季節の花や植物などがありますが、そういった季節感なども意識したりしますか?
料理に関して言えば、旬の食材は一番味が良く健康にも良い、と言われていますが、花も一緒で、旬なモノを取り入れた方が、相手の鑑賞スタイルや心情にも合うだろうと思って、季節感は重視しています。例えば、色に関して言うと、初春に明るい黄色や緑、ピンクの花を取り入れることで、寒さを耐えた後の喜びと春の陽気な期待感を、鑑賞者にも心情と重ねて見て感じてもらうことができるし、夏であれば、緑や白や黄色の色を使うことで、涼しくて爽やかで元気な感覚を呼び覚ますことも出来ると思います。
―植物は生き物ですが、そういったモノを扱うことで、気にされる部分はありますか?
ある意味、寿司屋と変わらないのかな、と思います。一番新鮮なネタを使って出すために、仕入れのタイミングをコントロールすることも仕事の1つです。だから花材屋さんに「この日に使うので、この日までにベストな状態のモノをください」と伝えたり。花は1〜2週間しか持たないので、新鮮なモノを、ベストなタイミングで、創って差し出す、ということを心掛けています。