”個々の生徒が元来持つ能力にもよるのですが、学校の教育によってその能力を育てることもできると思います。Lindaは生徒の独自性を認め、その中から何を引き出すことが出来るのか、それをちゃんと対話することにより引き出してあげていました。才能を育てるには先生の裁量にもよると思います”
→Diane Pernet -A SHADED VIEW ON FASHION- 1/4
―ファッションデザイナーが映像を作る、映像形式で発表することも増えてきていますがそれがランウェイにとって変わる方法になり得ると思いますか?
私自身はそうあって欲しいと願っていますがそういう風にはならないと思います。それはキャットウォークというものに頼っている職業がファッション業界には多すぎるからです。演出家、メークアップ、モデル、キャットウォークがなくなればなくなってしまう仕事も多いです。多分それがある限りファッションショーをなくすことは出来ません。
UNDRCOVERは以前はパリで毎シーズンランウェイショーをやっていました。毎回素晴らしいコレクションでした。でもそれをやめてプレゼンテーション形式にして、写真を撮り展示会形式にしたりしてデザイナーがそこにいて、そこに来る人がデザイナーと喋ることが出来るような展示会形式やドールメイキングなどのプレゼンテーションをやったりしていました。それもキャットウォークと同じような感激を観客に与えることが出来ていました。そういう例もありますし今はショーが必ずしもベストなプレゼンテーションの方法だとは思いません。
PRがキャットウォークをやらないと話題性がないと言ったりもしかしたらデザイナーというよりもPR側がショーをやらせたいというのもあるかもしれませんね。
―(ユナイテッドアローズ上級顧問栗野氏との)トークショーで本当に才能のあるデザイナーなのにブランドを続けることが出来ないとしてスウェーデン人デザイナーSandra Backlundの話をしていました。そういった才能があるデザイナーにもかかわらず長い間ブランドを継続できないブランドが多い理由とはなんだと思いますか?
Sandra Backlundの話をしますと彼女は以前は全てハンドニットで製品を作っていたのですが工場を紹介してもらい機械編みにした結果、その商品も凄く反応が良く、プレスの注目も集まったのですがその工場を使っている他の有名デザイナーが嫉妬をしてしまったことにより結果的にその工場が使えなくなり生産をすることが出来なくなりました。若いデザイナーにはそういった問題も頻繁にあるのです。
例えばMarc JacobsにはRobert Duffy(President of MarcJacobs)がいますし、Yves SaintLaurentにはPierre Berge (C.E.O. of Yves Saint Laurent)がいたように彼らには才能があるだけでなく良いビジネスパートナーがいました。才能があるというだけではビジネスに限界があるのかもしれません。
―僕もSandra Backlundのコレクションは凄く好きで以前インタビューをしたことがあるのですが最近はあまり新作が発表されずとても残念です。
私も彼女のファンの一人です。ストックホルムで彼女に会って、作品を見てイエール(イエールモードフェスティバル,2007年に大賞を受賞)に応募しなさいと言ったのは私なんですよ。
―その年のイエールには日本人デザイナーも出展していましたが覚えていらっしゃいますか?
Ohtaですよね。勿論覚えていますよ。彼とサンドラは凄く仲が良いんですよ。彼の作品は最も印象に残ったインスタレーションの一つでした。神社を作り、お香も焚いていましたし、音楽も印象的で今でも凄く印象に残っています。昔私が作ったイエールのドキュメンタリーにあると思いますので是非たくさんの方に見てもらいたいです。
私自身はイエールでは審査員をやっていたのではなくその前の段階、応募してみたらよいのではないかという人を見つけることをしていました。3年連続で自分が良いと思っていた人が優勝したので凄く嬉しかったです。Sandra BacklundとAnthony VaccarelloそれにMatthew Cunningtonです。
2年前を最後に私はもうイエールの仕事には携わっていませんが最後に一緒に仕事をしたのはラトビア出身のデザインデュオMareunrol’sです。彼らにはラトビアのリガで会いました彼らも才能あるデザイナーです。
―そういった才能はどうやって探すのですか?
直感ですね。何か琴線に触れるものがあった時です。理屈で説明できるものではないし、もう感情としか言いようがありませんね。
―ではそういった才能は学校の教育によって育てることができると思いますか?
勿論個々の生徒が元来持つ能力にもよるのですが、学校の教育によってその能力を育てることもできると思います。
このインタビューを受ける直前にここのがっこうの学生たちの展示を見てきました(→coconogacco「coco-ten」)。学生の作品の中に講師である坂部さんや山縣さんの影響は見て取れますが彼らは多分個々の学生が持っている創造性をドアを少しだけ叩いてあげることにより、より広げてあげているのではないのでしょうか。
アントワープという学校の教育が凄く良かったのは以前の学長のLinda Loppa(現在はイタリアのポリモーダの学長)の影響が強いと思います。彼女は生徒の独自性を認め、その中から何を引き出すことが出来るのか、それをちゃんと対話することにより引き出してあげていました。今のアントワープはちょっと「こういう風にあった方がいい」という先生の考え方を学生に押し付けてしまっている部分も強いのかなと思います。同じベルギーで言えばブリュッセルにあるラカンブルという学校が最近は凄く伸びてきているのではないでしょうか。そういった才能を育てるには先生の裁量にもよると思います。
―Dianeさん自身もそういったファッション業界を目指す学生たちに講義をされたりすることもあるのですか?
私自身は講義はあまりしません。一人で話をするよりも誰かの質問に答えるQ&Aが好ましいですね。一方的に一人で話すのは苦手なんです。