Interview

Ichiro Suzuki 1/4

学生や新卒者を対象とし、若手デザイナーの登竜門として、毎回斬新なコレクションが集うファッションデザインのコンテスト、ITS (インターナショナル・タレント・サポート)。世界的に注目を浴びるそのコンテストにて今年、マスキュリンなテーラリングにパッチワークやプリントを大胆に施したコレクションを発表し、ファッション部門の大賞に選ばれたのが、日本人デザイナーの鈴木一郎氏。

RCA (ロイヤル・カレッジ・オブ・アート)を今年卒業したばかりの新人デザイナーである鈴木氏。しかし、彼のもう一つの顔、いや寧ろ普段の彼の姿は、ロンドンのサヴィルロウにある。

紳士服の聖地、サヴィルロウ。その15番地に位置し、200年以上の歴史を誇る老舗テーラー、ヘンリー・プール。軍服を中心とした貴重なアーカイヴや世界各国の王室御用達認定書が並ぶ格式高いその名店で、彼は今日もカッターとして働いている。

閉店後の静かな店内に鋏の音を響かせながら、想像以上に素早く生地を裁っていく鈴木氏。その真剣な眼差しから一転、作業場の職人達と声を掛け合う様子からは大阪人らしい気さくな人柄が垣間見える。日々鈴木氏の姿をすぐ側で見守るヘンリー・プールの7代目社長、Simon氏も、「信じられないほどの情熱を持った、テーラリング界の異端児」と彼を評し、「ヘンリー・プールでの経験を糧に、ファッション界でも必ず名を轟かすであろう」と最大級の賛辞を贈る。

数世紀に渡り引き継がれてきた伝統技術と、毎日お客さんと顔を合わせる事により育んだ着る人への想い、更にロンドンらしいクリエイティビィティ。そして何よりも、スーツの新しい姿を追求するデザイナーとしての野心。代わり映えしない無難なトラッドスタイルが蔓延している中、情熱を胸にスーツの未来を創造する鈴木氏へのインタビュー。

1、卒業コレクション
「サヴィルロウで働いているという事だけでなく、全て含めて、一人のデザイナーとして評価して欲しかったんです」

—それではまず、卒業コレクションのお話からお聞きしたいと思います。コンセプトやインスピレーションなど、スタート地点はどういったものだったのでしょうか?

ウィリアム・ヘンリーというヘンリープールで雇われていたテーラーが、1896年に製作したパッチワークからスタートしました。このシルクでできた、ハンドメイドのパッチワークを見ていると面白いのが、平面、2Dなのに3Dに見えるというところです。それをディベロップさせたものが今回のコレクションです。このパッチワークはアーカイブというより、チェアマンのオフィスでただ埃をかぶって置いてあったものです。結構そういうところにお宝が眠っていたりするんですよ。

—そのウィリアム・ヘンリーという方は、有名なテーラーの方なのでしょうか?

ヘンリープールで雇われていて、55年間働いていた方です。このパッチワークをつくったときは86歳だったみたいです。

—それをたまたま鈴木さんが発見されたのですか?

地下の作業場で働いている、コスチューム部門のキースという方が教えてくれました。
それから次に、オプティカルアートをリサーチし出しました。結構有名なブリジット・ライリーとかバサレリー、それにエッシャーなどをリサーチして、その後テキスタイルを考えていきました。
テクスチャーに力を入れているのですが、テーラリングをベースにしたスタイルを変えるつもりはなかったので、テーラリングのコレクションになるであろうけれども、こういったテクスチャーをどうやって服に取り込むかというのを考えていました。

—そこから、実際の服のテクスチャーでも、タータンを歪めたりされたのですね。

そうです。例えばそのタータンのものは生地の糸を抜いてつくっています。横糸はそのままで、縦糸だけを抜いて、それだけだったら形はそのままなのですが、そこから更に引っ張ってやる事で生地の表面を操作することができ、おもしろいテクスチャーに仕上がっています。
そういったサンプルをつくったりと、今回ディベロップに多くの時間を費やしました。
またプリントは今まで使った事がなかったのですが、パッチワークと組み合わせる事によって効果的に取り入れる事ができたと思います。最近プリントを生地にしただけで、他の要素は普通な服が多いじゃないですか。僕はそれだけは避けたかったので、プリントとパッチワークを組み合わせたというのが今回のキーになっています。
例えばライオンのものも全部違う生地をパッチワークして製作しましたし、トレンチコートも、まずプリントしてから生地をばらして、それをもう一度くっつけています。すごく時間はかかりましたが、そうすることでテクスチャーに深みが出て、見栄えもよかったので自分でも驚きましたね。
勿論、ディベロップしきれなかったものは使いたくないので、幾つかドロップしたアイディアもあります。

—ウィリアム・ヘンリーさんのパッチワークから始まり、そこからジオメトリックなアートをリサーチして、そのような元々2Dで3Dを表現したものを、いかに実際に3Dにするか、というプロセスだったのですね。

そうですね。そういったものをいかに3Dである人の体にはめ込むか、リビングフォームにするかということでしたね。体に沿って柄をきれいに出すために、1センチとか5ミリとか1カ所で一気に絞るのではなく、各シームで1ミリとか2ミリずつ削って、柄はちゃんときれいに直線に見える、それでいて遠くから見たらシェイプもしっかり絞られている、という様にしました。

—今回のコレクションではそのようなパッチワークを使用したピースが中心となっているので、鈴木さんが普段ここヘンリープールでされていることとは随分違う技術も必要であったのではないでしょうか?

確かにそう思われるかもしれませんが、今回のコレクションはここヘンリープールで使う技術を発展させた結果だと思います。勿論プリントなどは独学しましたが、基本的にここで学んだ技術しか使っていないですし、ここで培った技術が結集されていると思います。
パッチワークに関してもどことどこを縫い合わせればきれいに仕上がるか、といった技術が必要ですし、やはりここで学んだ知識が生きていると思いますね。
ただぱっと見はヘンリープールで働いているとはわからない仕上がりだと思いますし、テーラーのお客さんよりもファッションピープルのほうが好きになってくれそうですね。

—技術はここで学んだ事が全て、ということですが、ヘンリープールでの普段のお仕事は、お客さんと話して、お客さんの体を採寸して、カットするというものだと思うのですが、今回のコレクションはプレタポルテですし、全てを自分でつくることになりますし、普段されていることとは異なる、新しい作業も多々出て来たのではないでしょうか?

そうですね、やはりクリエイティブにやらないといけないですから。勿論基礎はスーツなのですが、そこからもっとディベロップさせたということです。
ある程度の人々にフィットしなければならないので、まずは自分で、学校にあるものなどではなく、基本となるパターンであるブロックを1から自分でつくりました。ファッション学生の生徒の大部分は、こういうテーラーで働いた経験はないと思うので、元になるブロックがないと1からつくるということができないと思うので、そこが違うところだと思います。僕の場合は紳士服だと何もなくても、ものさしと鉛筆があればパターンを引けるので、1から自分が好きなシェイプをつくりました。
ちょうど下の作業場で働いているスタッフの一人がよい体型をしていたので、彼でフィッティングしながら、基本となるオリジナルのブロックをつくって、そこから展開していきました。
一般の方に見てもらってわかるかはわからないですが、テーラリングに詳しい方が見れば違いはわかると思います。例えばスーツの芯地で作られる胸元のドレープによって生み出されるマスキュリンなシルエットや、ハンドステッチによって作られるソフトなテクスチャーなどこだわれるところはこだわりました.

—今回、マスキュリンであるということは強く意識されたのですか?

そうですね。僕は自分が華奢だということもあって、芯地をガチガチに詰め込んだ男性らしいものが好きなので。
僕が日本のスーツのあまり好きでないところは、本当に小さくて細いだけというか、タイトなだけという点です。僕のつくるスーツは胸元にドレープがあって、そこから絞っていくので、マスキュリンに見えるんですよ。ショルダーも広めにつくりますし。もちろん絞るところは絞りますが。

—そういったシェイプに関する考えも、ここで養ったものなのですね。

そうです。やはりカッティングはここでずっとやってきたので、それが生きたと思います。BAやった後ここで働かずにすぐMAをやっていたら、こういうものはできていないと思いますね。

—そういったマスキュリンなスタイルが、サヴィルロウ、英国の伝統的なテーラリングということなのでしょうか?

そうですね。例えば、この仮縫いのジャケットを見ていただければわかるように、ほんとうにガチガチに3枚の芯地があって、胸元のドレープなど、服に入れたダーツを芯地に入れる事によってもっと盛り上がるんですね。
イタリアの場合は芯地のレイヤーも少ないですし、パッドも減らされていて軽いです。ですので、がっちりした体格の方にはよいですが、華奢な人が着ると余計に華奢にみえてしまいます。十人十色 、好みは分かれると思いますが,個人的にはやはり構築されたイギリスのテーラリングが好きです。

—今回はそのようなサヴィルロウの伝統的なテーラリングに、新しさ、モードな要素をあわせてコレクションをつくられたとのことなのですが、RCAでの卒業コレクションとその後に開催されたITSでのコレクションは同じものなのでしょうか?

同じではないです。RCAのほうはチューターと相談して決めたのですが、僕は納得がいっていなかったんです。そのときは時間もなかったというのもあるので受け入れましたが、RCAから一ヶ月ほどあったので、ITSのときはラインナップをちょっと変えました。

—そうだったのですね。例えばこのライオンのジャケットは仕上がりが全く違いますね。これは1からつくり直したのですか?

そうです。パターンはそこまで違う訳ではないのですが、生地は違います。他にもRCAで使ったタータンの4ピースもITSでは変更しています。
あとITSの7体目の幾何学柄のジャケットはRCAの時にできていたのですが、RCAの外部チューターであるスタイリストのSimon Foxtonにこれはないほうがいい、7体でも十分ストロングだ、このピースは他の7体と比べて違和感があり調和が欠ける可能性がある、またクオリティが下がってしまうと言われたので、RCAのときは省きました。

—そこでRCAでは7体、ITSではそのルックも含め8体出したということですね。

そうです。この幾何学柄のジャケットも格子の形を変えて部分的には人の体に見えるようになっていたりと工夫したのですが、これはITSに出した時も賛否両論ありました。写真を見た色々な方や友達、クラスメートからも、何故あれを入れたのかとう意見があって、やはり見抜ける人には見抜けるのだなと思いました。
こだわりがあって入れたのですが、ただ数が多いほうがいいから入れたと思われる事もありましたね。Simonにはいくら見せたくてももう一度アイデアを練り直すことも大事だよとも言われたのですが、結局これも見せることにしました。
でもそういう過程も含めて、今回のRCAとITSのショーではすごく勉強になったなと思います。特にSimonは真摯に相談にものってくれますし、チューターの一人が彼で本当によかったです。

—それでは次にITSについて。今までのITS受賞者で、サヴィルロウでテーラリングを学んだという方はあまりいないと思うので、今回その点もかなり注目されたのではないでしょうか。

いないと思いますし、自分で言うのもおかしいですが、ITSは特にファッション業界で知られているコンテストですが、サヴィルロウの若手でデザインに興味があっても、その存在を知っている人はほとんどいないと思います。恐らく、サヴィルロウで働いていてITSを穫る人なんてもう出てこないと思います。

—そうですよね。ITSのイメージは、もっといかにもファッションという感じなので。

僕もそのイメージわかりますよ。やはり少しは乗り込んでやるという気持ちもありましたし。

—サヴィルロウを背負って、みたいなことですか。

いや、サヴィルロウで働いていること自体はどうでも良かったんですよ。サヴィルロウで働いているという事だけでなく、全て含めて、一人のデザイナーとして評価して欲しかったんです。そして結果的にそうなったのが嬉しかったです。もう数年サヴィルロウで働いてきていますし、サヴィルロウにいるということを全面に押したいという気持ちはなかったです。プレゼンの場でも、もちろんサヴィルロウでの経験は僕にとって大事ですが、それよりもどういったインスピレーションからいかにディベロップしたかということを伝えました。
でも結果的に、ヘンリー・プールの皆が喜んでくれたのはすごくよかったです。

Ichiro Suzuki
URL: http://www.ichirosuzuki.co.uk/
Contact: info@ichirosuzuki.co.uk

Interview & Text:Yasuyuki Asano Photo©ITS 2012

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