Interview

Kenji Kawasumi 1/5

2月17日、AW12ロンドンファッションウィーク初日の夜に開催されたセントラル・セント・マーチンズのMAファッション卒業ショー。Alexander McQueen、Stella McCartney、Christopher Kaneら現在第一線で活躍するデザイナー達を数多く輩出してきた名門校からは、近年もThomas TaitやShaun Samsonなど多くの才能溢れる卒業生達が巣立ち、若くして自らのレーベルを立ち上げロンドンの新しいファッションシーンを開拓している。

ハンドメイド感溢れるアーティスティックな作品からモノトーンでミニマルなドレス、また服とオブジェが合体したようなピースまで、様々なコレクションが登場した20名の卒業生達による今回の合同ショー。その中でも一際存在感を放ったのが、7番目に登場した日本人デザイナー、Kenji Kawasumiによる作品。

表面に凹凸が施されたトップスとピンクのスカートを組み合わせたワンピースから始まったコレクションは、ケーブルニットのようなライトブルーのコートや切り替えが施されたオレンジのジャケットなど、キャンディーカラーと丸みのあるシルエット、そして何よりもサーフェスの質感が印象的なメンズウェア。

服のようなフォルムをしながらも、人々が普段着ている一般的な服とはどこか違った質感を見せる、一見何でできているのかわからないコレクション。実はその全てのピースは、操り人形といった木製の人形やおもちゃがもつ独特の質感をインスピレーションに、スポンジやフェルトを重ね合わせ、その表面を彫刻のように手作業で削っていくことで製作されている。

60年代にパコ・ラバンヌがプラスティックや金属を用いて服は布でつくられるという概念を打ち壊し、近年も多くのデザイナー達がネオプレンなどのハイテク素材を始めとした新素材を積極的に取り入れている中、彼の素材使いやテクスチャーは斬新でありながらも、出来上がったピースは未来的というよりはどこか暖かみを感じさせる不思議な仕上がりを見せ、凛とした表情を見せるモデル達は時を経て魂が宿り動き出した人形達のようにランウェイを歩く。

i-DDazed Digitalなど多くのメディアでも取り上げられ注目を浴びる期待の若手デザイナーに、卒業コレクションからこれまでの半生、そして将来について尋ねたロングインタビュー。

→Central Saint Martins MA Show 2012

1. 卒業コレクション―「木や人形の持つおもしろさを人間に、クラフトのもつ魅力をハイファッションに」-

―それではまず今回の卒業コレクションについて。元々は木を使った人形からインスパイアされたということなんですよね。

そうです。北欧やイギリス、アメリカなど世界中の手作りの、手で掘ってペイントした人形をリサーチして、ハンドメイドの工芸品の魅力を服に反映できたらなと思ったんです。

―そういったものには昔から興味があったのでしょうか?それともたまたま今回見つけて、という感じだったのでしょうか?

元々好きでしたね。僕はいかにもファッション的すぎるものよりも、クラフトっぽい感じのものが好きなんです。初めロンドンに来た時も、バッグのデザインをするつもりでしたし。
バッグは言ってしまえば、どんなものをつくっても成り立つじゃないですか。服だと人が着るから色々な制限が出てきて、身体に合わせてきれいに見せるためのバランスとか、僕はそういうパターンカットがあまり得意ではなかったんです。ですので、服をつくることに変わりはないですが、バッグとか人形とかをつくる勢いで、なんとか服をつくれないかなと。
それで今回の卒コレでは、ベースとなる厚みのある生地をつくって、その表面を削っていくことで、木でできた人形の服を実際の人間が着ている、ということをしたかったんです。木や人形の持つおもしろさを人間に、クラフトのもつ魅力をハイファッションに持ち込めないかなと。

―なるほど。それで実際にコレクションでメインで使われている素材が、フェルトとスポンジということですよね。

ほぼフェルトとスポンジでできています。表面を削ってもよいものを探していました。普通のコットンとかだったら切れ目を入れればほつれちゃいますし。

―とにかく木の、木目のような質感を出せるようにしたかったのですね。具体的な製作のプロセスはどういった感じだったのでしょうか?

まずはリサーチ、絵を描いて、初めは筒状のものを使ったり作りを細かくしてロボットっぽくしようと思っていたんですが、やっぱり僕はテキスタイルの人間なので、パターンはあまりできないというか。笑 そこでまずスポンジを試したんですね。

―スポンジをまず服の形にして、そこから表面を削っていったんですね。

そうです。これは主にはさみで削りました。柔らかいスポンジでも手の負担がすごかったです。笑

―そうですよね。笑 このスポンジを削るタイプのものは、結局いくつつくられたのですか?

すべて削りは入ってますが、かなり削っているのはこのスポンジの上にフェルトを重ねてつくったピース(コレクションのセカンドルック)と、オレンジのジャケット、あとパンツをいくつかですね。

―このセカンドルックのピースは製作にどれくらい時間がかかりましたか?

ヘルプの人もいたのですが、これだけで一週間くらいはかかりました。

―ヘルプの人もびっくりしたでしょうね、デザイナーの手伝いとしにきて、まさかスポンジを削ることになるとは。笑 貴重な経験だとは思いますが。

そうですね。笑 なかなか表現したい感じをを伝えるのが難しかったです。皆、絆創膏を手に貼って作業してましたね。笑

―笑 スポンジ以外のマテリアルのアイテムはどのように製作されたのですか?

スポンジのアイデアの後に、人形から派生して油絵の筆を置いて描くようなタッチを参考に、フェルトを重ねてレイヤーにしてそこにはさみを入れていく、ということをしました。

―なるほど。そして最終的に、いくつかのアイテムには削った後にペイントを施したのですか?

そうです、中にはペイントしてから削ったものもあります。

―パステルのカラーはどのようにして決めたのですか?

リサーチからきたカラフルな人形のイメージにしたかったというのもありますし、もともと個人的にパステルカラーが好きでした。あと版画や先ほど話した油絵みたいに、色々な色が混ざっている感じを出したかったんです。あとVeruschkaというアーティストの、壁と人間を一体化したり、服をきているようなペイントを人間にほどこしたり、そういうのも人形のリサーチとリンクさせて、とにかくサーフェスの表現に力を入れました。

―木のおもちゃや人形への興味から始まって、最終的にはその質感を表現するためのサーフェス、テクスチャーに最も注力したんですね。

そうです。今回服の形に関しては、人形らしいの丸みや曲線を模索しましたが、やはりテキスタイルの方がやりがいがありますね。

―コレクションの各ルックのイメージも、木の人形ということですか?

そうです。僕の今回のイメージにはピノキオがあってるかと思います。

―確かにそうですね。ピノキオは実際に動きますしね。ちなみにタイトルとかはあるのですか?

タイトルはないです。

―コンセプトとかっていうよりは、純粋に木の人形を服で表現したかったという感じですか?一般的にセントマの生徒はもっとコンセプチュアルっぽいイメージがあるのですが。

僕は木の人形を服で表現して、工芸のやり方でファッションをやりたかったのですが、よりコンセプチュアルな人も勿論いると思います。僕もBAのときはもっとそういう感じでした。

―BAのときはどういう作品をつくったのですか?

ファイナルのときは、ピノキオのアイディアと少しリンクしていて、伝統工芸の技術や考え、使われる素材をハイテクノロジーと組みあわせたらおもしろいと思って、木をレーザーカットで切って、更にそれをニットで包んだりしました。反射するアクリルをニットの中に入れたりもしました。

―その時から既に人形というアイディアはあったのですね。

そうです。そのときはもっと日本やスウェーデンの陶器とか民芸品をリサーチしました。そこから、職人の手によって作られ、長い間使われた椅子や器が魂を持つ、八百万の神、というアイデアでやりたかったんです。ものが動き出す、といったような。なのでリサーチから素材は木やアクリルなどを使いました。靴にはファーと爪をつけて動物っぽくしたり。

―このBAの時の方が、服っぽい感じになってますね。

狙って服っぽくした訳ではなく、先にこのテクニックを使いたいと思ってつくったら自然とこうなりました。でも、BAを卒業する時だったので、いかにもセントマっぽい派手なものではなく、なんかデザイナーっぽくしたいっていうセントマ生なりの変なこだわりも少しありました。

―BAのときの反響はどうでしたか?

プレス向けのショーにも出ましたし、いくつかの雑誌にも使ってもらいました。その後、MAに進学しようと思っていたところで、ルイ・ヴィトンからデザイン職を募集しているから受けてみないかという話を頂きました。パリに行って一次面接を受けたのですが、結局事情でMAに行けるのはそのタイミングしかなかったので、進学することにしました。

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