2010年秋冬パリコレクションよりデビューしたキム・キホと橋上桃子によるファッションレーベルCOINONIA。共にITS(#3,#4)のファイナリストでAntonio Marrasでデザイナーとしての経験を持つ。ブランド名の「COINONIA」はギリシャ語で人とのつながり、分かち合い、コミュニケーションという意味を含む「Koinonia」のコンセプトに由来する。チーム内での調和された理想的な繋がりの意味。
『コンセプチュアル・コンテンポラリー』をテーマに、クリエイティブな女性の為の新鮮で現代的な服とアクセサリー創りを目指している。服はまずマネキンの上で形づくられ、コンセプトをもとにストーリーを与えられ、実験的で建築的な形、ダイナミックなカッティング、繊細なディテールと色でまとめられる。ストーリーとコンセプトが柱となって、女性らしさと男性らしさ、静と動、柔らかさと堅さなどの相反する要素をミックスすることによって生まれる新しいデザインを提案する。
―ブランド設立の経緯を教えてください。
パートナーのキホとは以前の職場であるイタリア、サルディーニャ島のアントニオ・マラスのスタジオで同僚として知り合いました。数年働いた後はそれぞれに独立願望があったのですが、二人の感性をシェアーしながら一つのブランドを創っていくのもおもしろいのではないかということで一緒に始めました。
―そもそもどうしてファッションデザイナーになりたいと思われたのでしょうか?
橋上:元々ファッションデザイナーを目指しているわけではなかったので、一般的な四年制大学に入学しました。卒業後の進路を考えた際、一生本当に好きなことをやりながら自己表現をしていきたいと決心し、子供の頃から好きだった服を追求することを直感的に選びました。突然のことで周囲の人は驚いていました。
キホ:子供の頃からアートが好きで、将来は絵描きになりたいと思っていました。その延長でファッションデザインという分野に出会いました。ファッションはアート的な部分と実用的な部分を同時に表現することができるということでとても関心を持ったのが始まりです。
―Antonio Marrasの元でお2人ともデザイナーを務めていたようですが、それぞれどのアイテムのデザインをされていたのですか?またどのようなことを学びましたか?
橋上:それほど大きな会社ではなかったので、たくさんのことに携わるチャンスをもらいました。私は主にレディースファーストラインのショーピース(主にドレス)のデザイン製作、ディテール作りとアクセサリー作りを任されていました。机の上でデザインするよりも、マネキンの上でデザイン製作するほうが断然多かったです。常に手を動かして何かを作っていました。アントニオは時にオペラやバレーの衣装も担当することがあったので、舞台衣装のデザイン製作も手がけました。あとはレディースセカンドラインとメンズラインのデザイン、アートワークなど作業は多岐に渡りました。様々な仕事を通して自然と身に付いたものは多々あります。その一つは、デザインする際はドローイングだけではなく、手を使って考え生み出す重要さです。
キホ:レディースファーストラインとメンズラインのデニムアイテムのデザイン、Tシャツのプリントデザイン、パターンメーキングを主に任されていました。またメンズラインのバッグデザイン製作、舞台衣装作り、ペインティング等のアートワークなど様々な作業に携わりました。
―『コンセプチュアル・コンテンポラリー』というブランドコンセプトはどういった経緯で決まったのですか?
二人共現代アートが好きで、学生時代からかなり影響を受けており、常にアートとファッションの融合というものに惹かれていました。現代アートはコンセプチュアルなものだとおもいます。そこに実際に市場に出して着てもらうことができるコンテンポラリー・ファッションをミックスしていこうというところからこのブランドコンセプトに決まりました。
―2012 S/S Collectionに関してお聞かせください
タイトルはDual Nature(二面性)です。
一体の作品で二つ以上の異なった素材(柔らかい素材と固い素材、透明な素材と不透明な素材、自然素材と化繊素材など)を使って一人の人間に潜む二面性(多面性)を表現しました。またシルエットもエレガントなものとスポーティーなもの、女性的なものと男性的なものをミックスしています。白くスポーティーなアイテムから始まり、黒のエレガントなアイテムへと徐々に移行します。
―仕事はどのように分担されているのですか?
二人共デザイナーですが製作方法の傾向が違います。私(橋上)は机上でおおまかなデザインをしてからマネキン上でのドレーピングで型を出していきますが、キホは平面パターンを得意としています。私が組んだ大まかなドレーピングがキホの手に渡り、整えられ、平面パターンに移され、それを組み立てたものがまた私の手に戻り、ディテールが整えられ、そこからさらに二人であれこれ発展させるという、まるで対話のようなやり方で作業をしています。
―互いの価値観は似ているのでしょうか?もし意見がぶつかり合うということがあるのであれば、どのようなことで意見が分かれるか教えてください。
二人の価値観は基本的なところではよく似ていて、コンセプト構築は大変上手くいきます。ですが時に表現方法が違うことはありますので当然意見がぶつかります。その時はお互い主観的にならず、すべてを第三者の目で見て考えるようにしています。二つのアイデンティティーをお互い認め合って上手くミックスしていくことで、自分にできる以上のもの、想像したことのないものが生まれることもあり、とても興味深いです。
―作風は学生の頃から変わっていますか?変化したのであれば、その転機となったものは何でしょうか?
橋上:コンセプトの建て方はあまり変わっていませんが、作風は変わりました。学生時代は自分の中にある過去や現在の思いを作品にダイレクトにアウトプットするのが自分なりの表現方法でした。アウトプットしながらも繭の中に入っていくようなパーソナルな作風で、その時期は服を創ることで安心して子供に戻れるような感覚でした。その方法が変わったのは、多分当時やりたかったことをとことん突き詰めた結果、自分自身の満たされていなかった部分が埋まりゼロになったからではないかと思います。そこから新しい目と感覚でこのブランドを始めることになりました。
キホ:作風はあまり変わっていませんが、パートナーとの仕事を通して二人のテイストが統合されつつあり、全く新しいものになっていっている感覚があります。それはこれからも変化し続けていくと思います。
―なぜミラノをベースに活動をしているのでしょうか?
当時は退職した後も好きなイタリアに残りたかったというのが本音です。また私達の共通言語がイタリア語なので、仕事をする点でも手っ取り早いとおもいました。サルディーニャ島でブランドを立ち上げるには無理があったので、ファッション都市であるミラノに移りました。ですが2011年の中旬から拠点をソウルに移しました。現在ヨーロッパ市場に比べアジア市場が大変力を増しており、非常に重要なマーケットになっています。現時点ではアジアに拠点を置いた方がビジネス面でのアプローチがしやすく、有利な状況だという理由で決定しました。
―シーズンコンセプトはどういったところから導き出してくるのでしょうか?
『現象』『感情』『思考』が私達のインスピレーション源です。普遍的な現象に私達の感情と考えを絡ませてコンセプトを構築します。一般的に物事は角度を変えて見てみると実に様々な面があることが分かります。私達はそういった多面性や、逆説、矛盾などを作品に投影しています。女性的で男性的、固さと柔らかさ、静と動などの相反する要素を混ぜて新しいコンセプトを創造することを好みます。
―ものを作る上で大切にされていることは何でしょうか。
一つ一つのプロセスがすべて大切ですが、おおまかに言えば、コンセプト、時代の空気、デザインの斬新さ、オリジナリティ、着心地の良さです。
―COINONIAの女性像を教えてください
何者かになりたいというよりは、自分という人間を理解していて、その自分自身と対面している女性。必要な部分は残して不必要な部分はそぎ落としていくような女性。変化を厭わない強くクリエイティブな女性。
―今後やりたいことや試してみたいことなど、将来のビジョンを教えてください
2011年は新作コレクションの発表の他に、美術館やイベントでの単独展とグループ展をミラノ、ベルリン、ソウルで行いました。ファッションだけではなく、アートピースの展示もしました。今年もまたそういったファッションとアートを融合させたような展示ができるといいとおもっています。
また、ファッションショーをやったことがないので、近い将来いいタイミングがきたら始めてみたいとおもっています。どこで始めるかは未定です。
Interview & Text:Masaki Takida, Fumiya Yoshinouchi
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キム・キホ
ソウルのHangseung Universityの服飾科を卒業後、Parkyounsooで3年間デザイナーとして経験を積み、その後ミラノのCarlo Secoliでパターンメーキングを、フィレンツェのPolimodaにてファッションデザインを学ぶ。在学中は様々な国際コンクールに参加、受賞。ITS#3のファイナリスト。卒業後はAntonio Marrasで4年間デザイナーとして働く。
橋上桃子
青山学院大学国際政治学科を卒業後、文化服装学院服飾研究科に入学しファッションの道を志す。その後渡英しLondon College of Fashionを経てCentral Saint Martinsの婦人服科を卒業する。在学中はJohn Gallianoをはじめとするパリのファッションハウスにて経験を積む。様々な国際コンクールに参加、受賞。 ITS#4のファイナリスト。卒業後はAntonio Marrasで2年間デザイナーを務める。
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