“外にいるより中に居る方が社会性がある状態。コミュニケーションの密度が高い環境が反転してしまい、それが新しいストリートになっていると捉えています”
―ハトラというブランド名の由来を教えてください
ハトラは留学中に出会ったアイスランド人の女の子の名前です。その子への好意とかではなく、単純に良い名前だなって覚えていたんです。だから「ハトラ」には意味もないし、その子にも名前を付けたことは言ってません。初めからブランド名を決めていたわけでもなくて、帰国してSisterで取り扱ってもらうのに「何か名前を付けてください」って。自分がブランドを立ち上げるという計画もないままだったので急だったんです。なので自分が一番良いと思ったことのある名前、「ハトラ」となりました。
―自分の名前をブランド名にする考えはなかったんですか
ブランド名として(自分の名前である)Keisuke Nagamiにするつもりはありませんでした。それは親が自分につけてくれた名前で自分の好きなものや名前とはまた違った意味があるので。
それに単純に語感が良くないなと思うんです。ブランド名はN(ん)がつくものが良いなと思っていて、ヴェロニクブランキーノとかジョンガリアーノとかジュンヤ•スズキもそう。「ん」がつくことによりクッションがついてよい感じに読めるんですよ。ハトラはついてないですけど。
―ハトラのコンセプト”ネットを通して生まれてきた新しい環境(ストリート)を背景に、「部屋」をテーマに現代の生活に最適化された居心地のよい服を作っていきます”というのは今の時代、世代だからこそ出てくる考え方だと思います
そうですね、それはあると思います。外よりも部屋のPCのディスプレイの前にいる方が外と接しているというか、より社会性を持った状態であるということなんです。
そもそもなぜ「部屋」というテーマが出てきたかというと僕はもともと狭い場所が凄く好きでトイレとか風呂とか布団の中とか、その空間だけは侵されない空間、屋根裏部屋とかもそうなんですが凄く落ち着くんです。風呂は手を伸ばせば全部の空間に手が触れられて、不確実ですけど誰からもその場は侵されない、それが凄く心地よくてそれをそのまま部屋として着て外に出れるようになればというのが一番最初というかテーマの中で言いたいことなんです。その狭い気持ち良い空間そのままに外に出してあげたいんです。
そういう意味で引きこもりというよりは引きこもっているのが好きな人、引きこもっていても社会性がある人の為の服という部分はあります。
―ブランドのコンセプトを決めたのはいつですか
しっかりと決めたのはウェブサイトが出来た時なので2011年の1月くらいだと思います。丁度ミキリハッシンでの取り扱いが始まった頃ですね。
―ミキリハッシンでやった展示会、2011−12AW Collectionが初めての展示会だったと思うのですがこれが実質ハトラのファーストコレクションということでしょうか
そう思っていただいて構いません。
『部屋」っていうテーマはSisterからハトラをやってる中で途中で出てきた言葉なんですけど今回のコレクションはそのテーマを割と忠実に再現出来たと感じています。
ただ今回のコレクションを準備していて自分では凄く満足していたんですけどあまりに出来たものが自分にとって自然すぎて、逆に見る人にとっても当たり前のものなのかもと不安でした。
―ほとんどの洋服にフードがあったと思うのですがそれはこだわりですか
学生の頃からなのですがフードには並々ならぬ情熱を注いでいます。フードはシンプルに見えて奥が深くて修正を何度も重ねている。外界から情報を遮断して自分の部屋を作る為には頭、特に耳や視線を隠すのも重要で、その為に結果的にフードがついている服が多くなっているんです。
フードに関してはアニメから直接的に影響を受けている部分があって、アニメとかに出てくるフードっておろした時に首周りから後頭部にかけてのラインが凄く奇麗に斜めになっている、だれていないというか。魔法使いが被っているフードはだれていますけど、普通はパーカを着ても後ろにぺたんってなっちゃうんですよ。でもそれがアニメの中のパーカって奇麗に立っている。そういうフードってアウトドアやストリート系に多いんですけどそうなるように作っていて、でもそれを被った時のシルエットが今度はきつきつなんです。フードのサイズを小さくすることによって立つんですけど小さくすると被った時が凄くしょぼくてもじもじくんみたいになる。でも実際そこをすりあわせるのは凄く難しい、パターン的にどっちもいれたい、アニメは被った時もゆったりしている。大変だなと思いながら作っていますが理想にはまだ全然たどり着かないですね。だからその点は確かにアニメの虚像を追い求めるというのはありますね。
―ハトラと言えばフードみたいな感覚はありますね
そうなればいいですね。ツイッターでもフーディストとありますし。
―素材はスウェットを中心にやっていこうということですか
スウェットが「部屋」というテーマに一番近かった素材というのが大きいですね。それと僕はスウェットは凄く完成度の高い生地だと思うんですが世間ではカジュアルにしか扱われない、そのギャップを感じていたんです。だからもうちょっと日の目をあびさせたいという気持ちがあるんです。
―スウェットという素材はストリート、カジュアルのイメージが強いですよね
そうですね。本当は造形も凄くしやすいし、シワも寄りにくく着心地も良い、そういうイメージは今後も塗り替えていきたいなというのはありますね。
―ワイヤーもほとんどの服に使われている素材ですよね
「部屋」という話をすると、ハトラでは服と体の間のスペースを大切に扱うようにしていて、腰パンとかもその感覚と凄く近くて服と体の間の自分の保有するスペースが多いと凄く安心するんですよ。そのスペースで着る人の為の小さな部屋を作ろうとしているのですが、畝のディテールによって着る人の占有スペースをさらに拡張しているイメージです。
―ぴったりとした服は好きではないんですか
着る分には好きではないですね。
―ハトラの服と自分の着たい服、重なる部分はあるんですか
重なっています。着たいものというよりは着ているはずのものです。
―ネットを通して生まれた環境を背景にとありますが小さい頃からネットがある環境で育ってきた、ネットを通して生まれてきた洋服はそれを通さないものとどう違うのでしょうか
大雑把に言うと外にいるより中に居る方が社会性がある状態。コミュニケーションの密度が高い環境が反転してしまい、それが新しいストリートになっていると捉えています。その結果服がどう変わっているか客観的にみれませんけど、受け入れてくれる人の背景が違うということです。
―HPにはうしじま(いい肉/コスプレイヤー)さんをモデルにしたルックが使われていますがなぜ彼女をモデルに使ったんですか
うしじまさんは元々コスプレのフィールドでキャラクターとしてイメージを作り上げることに馴れているというのがあった。アニメやイラストのキャラクターの魅力を理解し、自己演出できる人だったから彼女にお願いしました。
―ということはアニメのキャラクターとしてうしじまさんにハトラの洋服を着てほしかったということでしょうか
特定の誰かということではなくて、そういう意味では凄く偶像性が高いという意味ですね。
アニメのキャラクターって裏切られないんです。例えば「けいおん」って女子高が舞台でそこに男は出てこないんです。たまに弟が出てくるくらいで、親も出てこない。絶対そんな人は現実にはあり得ないけど、キャラクターは自分が女であることを意識しないし、見ている方もそれを信じられるんですよ。
アイドルを見ているファンの視線も、生身の人間じゃなくて絶対に裏切らないというかその場だけにいる偶像を信じきれる目を持っているから楽しめると思うんですけど、うしじまさんはそういった対象として振る舞うのがとてもうまい人だと思うんです。そういう意味でのキャラクター的ということです。
―HPにある写真は服がメインではなくてどちらかといえば萌えの部分も感じられると思うんですがそういう部分も出したかったのですか
それに関してはうしじまさん、写真家が共にそういう撮影をメインでお仕事されていて、馴れていたからというのもありますね。ただ、服じゃなくて着ている人の写真にしようと意識していました。服に焦点を当ててもハトラについて伝わるものは少ないと思って。
今シーズンも男性モデルに着てもらってルックは撮ったんですけどあれとは別でうしじまさんをモデルにルックを作ってウェブにアップするつもりです。
でもモデルがうしじまさんじゃなかったら男の子に着てもらうしかないなとは思っていました。
―それは自分の理想の女性像があるからですか
そうですね。女性像は少しのノイズで簡単に崩れてしまうものなので。
―うしじまさんを好きな人とハトラを好きな人は全然違いますよね。その部分は関係ないんですか
違いますね。「このお尻いいですね」みたいのはあったんですけどそういう人たちは服には興味は示してくれないことも多かったですね。でもファッション畑のひとでうしじまさんの予備知識がなくても、男性にはとくに反応が良かったですよ。
―一般的なモデル、外国人のモデル等を使ってルックを撮ることは考えていないんですか
ルックブックに外国人のモデルを使うのはありかもしれないけどウェブサイト等のイメージについてはモデルぽさがみえてしまうものを作りたくなかったですね。結果としてそういうカットも出ちゃったんですけど、うしじまさんもコスプレイヤー然としたようなカットはつくりたくなかった。普段の撮影通りだと、どうしてもキメた姿勢になってしまって。
―うしじまさんの話でアニメの話が出てきましたが若い世代のクリエイター達にとってアニメというものが無意識/意識的にかかわらずデザインのツールの一つになってきていると思いますが
日本で生きていれば自然に入り込んでくるものだと思います。どちらかといえば、クリエイターよりも受け入れる側の耐性ができてきたことのほうが大きい気がします。
―アニメからはどのように影響を受けているんですか
アニメに限らず見て美しいというか萌えもそうですけどそういうのに興味を持つ気持ちの動き方というのをデザインソースに活用している場合が多いです。
―今おすすめのアニメはありますか
夏アニメのなかでいうと「輪るピングドラム」というアニメが楽しいですよ。クール毎にアニメの中の女の子の表現力とか可愛さというのは常に更新されていっていますね。
―”今”やっているアニメの中の女の子が常に究極ということでしょうか
それはファッションと同じで新しいものが古いものを作るということだと思います。絵だけで見ると可愛さは確実に、すごいスピードで更新されていっています。
―ツイッター以外にtubmlrもやっていますがあれも表現方法のひとつなのですか
表現というよりは、もっと日常的な活動です。よく食事を例に出すんですけど、情報を食べて少しずつ体の一部になっていく感覚を持つことがあります。食べずに棚に飾っておくと腐ってしまう。3年ほど前からずっと続けている趣味ですね。
―tumblrがハトラにとってのインスピレーション源でもあるということですね。ということは自分のインスピレーション源をリアルタイムで見せる、ネタバレにも繋がるということですよね
アウトプットがあってはじめて身になってくるものなので、この過程を経ずに画像を収集することとは大きく意味合いが違うんです。
―ハトラの中では女の子が大きなインスピレーションソースになっていると考えてもよろしいのですか
というのではなくて女の子を”可愛い”と思う気持ちがインスピレーションソースになっているんです。僕の服を買ってくれるのはほとんどが男性なんですけどミューズは女の子です。
―ではそのミューズ像を教えてください
男の子っぽい女の子っぽい男の子っぽい女の子です。凄く性的なイメージが中和された人という意味です。だからさっきうしじまさん以外でモデルにするなら男の方が良いといったんですけど、アニメやイラストの中にいるキャラクターはそれを実現してくれるんです。キャラクターに下心はないから。でもそんな人間は現実にはいない、それはとても悲しいですね。
強制するつもりはないですけど、男の人にも、ハトラのイメージを通して感じるものを、着ることで消化してみてもらいたいと思います。
でも実際ミューズの扱われ方ってそれと結構似ている気もします。