Interview

THIMISTER 1/2

1980年代にアントワープの王立アカデミーを卒業後、Karl LagerfeldやJean Patouなどの下で経験を積みBalenciagaのデザイナーを6年務めた後、19997年にメゾンTHIMISTER(ティミスター)を設立したJosephus Melchior Thimister。
 ユニセックスでコレクションを表現し卓越された素材使いで注目を集めるTHIMISTERにパリグランパレで行われた2011 A/W ランウェイショーの数日後、展示会場で話を聞いた。

―まず最初に今回のコレクションについてお聞かせください。どんなことからインスパイアされたコレクションだったのですか

これといったインスピレーション源というものは特にないのです。それよりは大まかに言えば“雰囲気(atmosphere)”を重視したコレクションと言えるでしょう。
今回のコレクションはまずカッティングがとても重要でそれによりフォルムが決まってきます。またほとんどのピースはバイアスにカットされています。後ろから前に流れるよう布の動きやドレーピングは”fallen angel”/堕天使を表現しています。

―今回のコレクションではほとんどのピースに足元まで続く長いリボンが付いていたのですがあれはなんだったのでしょうか

単純にリボンが好きなのです。私のコレクションでは常に木やリボンといったものが使われています。今回のショーではあのリボンは堕天使の折れた羽をイメージしています。

―以前コレクションをした際に「自分は政治的な人間ではありません、しかしファッションには言葉がある。今は自身の観点を表現する時だ」と語っておりました。今回のコレクションにもあなた自身が訴えたいような“言葉”が含まれていたのでしょうか

今回はその時に比べて多くはありません。今回のコレクションは自分にとってはリアルなコレクションで人々が着る為のリアルクローズです。私が思うにとても都会的なコレクションだったと思います。多くの人にとって着こなしやすいものになっています。このコレクションは私のクライアントにとってより身近なものにしたかったのです。
また今回のコレクションは今後のコレクションの礎となるべきコレクションでユニセックスのコレクションです。コレクションではとても男性的なモデルが洋服を纏って登場しましたが“メンズウェア”というわけではありません。このコレクションはメンズもレディースもないのです。私にとってはこのコレクションの一つ一つのピース全てが誰にとっても身近なコレクションになり得ると思うのです。
今を生きる男性、そして女性の精神の境界線はとても曖昧でどちらにも着こなすことが出来ます。女性らしさや男性らしさというものはないのです。男性はよりフェミニンになり、一方で女性はより男性らしくなってきている。女性も男性もある意味同じレベルにいるのです。若い年代の人を見てください。彼らはみな同じブランドのものを買い、同じような服を着て、そして着こなしも同じに見えます。子供服も同じです。

―ユニセックスな中にも女性らしさや男性らしさというのは重要ではないのですか

それは着る人次第です。時間、そして社会との調和、今世界で何が起こっているか、どのようにリアルクローズを着こなすか・・・・。今はよりパーソナルな時代になっています。私にとっては「女性らしさ」や「男性らしさ」をとりわけ強調する「必要性」を感じていません。女性が男性のジャケットを着こなすことにより、より女性らしくなることもあります。また男性が着るドレープやルーズな洋服もより男性らしさを増すこともあるでしょう。ただ私にとってはその言葉は意味をなしません。過去のボキャブラリーであり将来の為の言葉ではありません。

―あなたが作品を制作する際、最も重要な要素はなんですか

「仕事をする」ことです。それもハードワークをすることですね。私は自分の仕事が大好きでなんです。とても情熱的に望んでいます。
今シーズンは洋服のカッティングに時間を割いたコレクションでした。これらはとてもシンプルに見えます。ただしそれを作るのは容易なことではありません。男性や女性、それに若い人から上の年代の人との調和を見つける為に何度も何度も作業を繰り返すのです。その「仕事をする」作業がとても重要なことなのです。先程も述べましたが今回のコレクションはよりたくさんの人にとって身近なコレクションにしたかったのです。もしかしたら60歳の男性が着るかもしれませんし60歳の女性がこのコレクションを着ることもあるかもしれません。それと共に20歳の男性もこのコレクションを着ることが出来るようにしたのです。

―あなたの服を買う消費者について教えてください

それは今私自身がコレクションの課題として取り組んでいることです。今までよりたくさんの人々に着てもらいたいと思っています。

―あなたがデザイナーとしてデビューしてから20年が経ちます。その頃と比べて何か変わったことはありますか

勿論ありますね。大きな違いです。私は常に女性用の服も男性用の服もデザインしユニセックスの考え方は変わりません。ただし以前はより女性の服によっていた気がします。しかし今はとてもバランスが取れています。男性の着るドレスだってあります。そして世の中も色んな事が変わりました。性というものは失われつつあり、特に若い世代では明らかな性差がありません。

―今現在のファッションシーンについてどう考えますか

ファッションシーンというよりはそれぞれのデザイナーがそれぞれの道を歩まなければいけないと思っています。私は他のデザイナーの作品を見たり、そういったことについて話したりすることはあまり好きではありません。勿論私のこれまでのコレクションを形成する上で良い影響を与えてくれたデザイナーはいます。例えばHaider Ackermann、彼は素晴らしいデザイナーです。彼は人格者であり、また同じレベルでコミュニケーションが取れる私にとって良い友人です。またマルタンマルジェラも非常にすばらしいのですが彼はもうメゾンを去りました。彼が去ってからのコレクションはあまり見ていません。私とは全然違うアプローチですが現在のCelineも同様です。彼女も“リアルクローズ“とは何かを知っていると感じるからです。たくさんの評価すべきデザイナーがいますがそれは彼らなりのやり方であり、そのやり方は私にはあてはまりません。しかしそれは問題では有りません。私はとても自由を感じています。

―あなたはデザインが好きですか

デザインと言うよりは仕事をすることが好きです。それをデザインと呼ぶのかは正直わかりません。テクスチャーについて考えたり、ファブリックと向きあったり、カッティングも好きですし、とにかく一緒に働いている人々が好きなんです。Thimisterのアトリエ全体がまるでワークショップのようです。私のこれまでのキャリア、GennyやBalenciagaを含めアトリエはまるで大きな家族のようです。一つのコレクションが終わると誰かが去り、また他の誰かが来る。誰かが加わることによりまた新しいエナジーが加わります。アトリエは常に現在進行形のワークショップのようなものなのです。

―今回はファッションショーという形式をとりましたがその方法はあなたにとって重要ですか

それほどこだわっているわけではありません。私にとっては「私の表現した洋服をどのように着こなすことが出来るのかということを伝える」ことが重要です。プレスの為のファッションショーは過去と意味合いが変わってきています。インターネットによっても色んなことが変わりました。またプレスに受けるものとショップで受けるものには大きな隔たりがあります。そこにはいわゆる「リアリティ」はありません。だからこそ私は新しい「リアリティ」を追求したいのです。

―プレスやジャーナリストの言葉はあまり気にならないということですね

そうですね。気にしなくはなりました。私はもう自分の心の平静を保つことが出来る充分な大人になりました。15年前であればもしきつい批判などがあればとても落ち込んでいました。今は彼らの言うことを理解しようとしますし、そのことを自分で分析したりも出来ます。それが納得いくものであろうとなかろうと。コレクション後は3回ビデオをみて、もうそれでそのコレクションは終了し次のシーズンです。

―ということは、ファッションはより自由になったとお考えですか

自由な活動は自由で有るべきです。創造力は社会にとってとても重要です。なぜなら社会そのものは創造力を持ち得ていないからです。創造力がなかったら未来を作ることも出来ません。今の時代は自由にクリエイトすることが出来ると信じています。

―あなたはもう何10年もこの業界にいますがどのようにモチベーションを維持しているのでしょうか

私は生まれながらの戦士なのです。歳を重ねるにつれてより働くようになってきました。さっきも言ったように昔は誰かが言ったことをよく気にしていたものです。セックスもしたいしナイトクラブにも行きたかった。色々と遊びたかったのです。でも今は自分で自分をコントロールできるようになりました。歳を重ねるにつれより美しさを追求したいという気持ちが強くなりましたし、より仕事を好きになってきました。

続く

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