Interview

地下アイドルとファッションの競演 MIKIO SAKABEのショーを業界関係者はどう捉えたか

2011年4月22日MIKIO SAKABEの最新コレクションが六本木TSUTAYAにて発表された。今回のファッションショーではMIKIO SAKABEのシュエ・ジェンファン氏によるブランドJENNY FAXがランウェイデビューしただけでなく最前ゼロゼロとの合同イベントであり秋葉原ディアステージ所属ユニット「でんぱ組.inc」のライブもショーの一環として行われた。この日のショーにはThis is Fashionのイベントの一環として行われた前回のCHIM↑POMとのショー(1500人以上)同様多数の一般人が来場し会場は熱気の渦に包まれた。

デザイナーの坂部氏は今回のコレクションに関し「日本も絶対これから新しい方向に向かわなければいけない。だからビジネスとしてのファッションではなくもっと、エンターテイメントの心、全体のイベントとして文化祭のようなものをやりたかった」と述べている。秋葉原の地下アイドルを巻き込んでの今回のイベントに絶賛の意見も相次ぐ中、否定的な意見も少なくなかった。彼が今回提案した「ファッション」は業界関係者達にどう映ったのか。デザイナーやジャーナリスト、エディタ―などに今回のショーに関してのコメントを募った。

第一回目は長年コレクション取材を担当しMIKIO SAKABEもデビュー当時から見続けている
繊維ニュースの増田氏、京都服飾文化研究財団アシスタント・キュレーターでありジャーナリストとして様々な媒体にも寄稿している蘆田氏、デザイナーの坂部氏と同じアントワープ王立芸術アカデミー卒で1学年後輩のTARO HORIUCHIのデザイナー堀内氏、、ブランドVEVEROPPARUUUを企画・運営、カオスラウンジのまるたんの製作協力もしている小竹 一樹氏の4名に話を聞いた。

 08SSのデビュー以来、坂部さんのコレクションは欠かさず見ていますが、今回はじめて違和感を感じずにストレートにショーを楽しめた気がします。
 彼の作品を見る時、制服と秋葉原をテーマにしたファーストコレクションを見た時の何とも形容しがたい違和感を常に感じていたように思います。11SSの“広島の原爆”もそのひとつで、これはThis is fashionじゃなくてThis is not fashionとさえ思った。その違和感の正体は「日本で育ち学び働いたデザイナーなら絶対選ばないテーマを俎上にのせること」にあると理解しています。日本のほとんどのデザイナーは大枠では共通のカッコいい&カワイイを追求しますが、彼からはその意思がほとんど感じられなくて、「んっ?」ってところを突いてくるんですね。日本人なのに外国人の視点で物事を見ているというか、多くの日本人が「寒い…」と感じることを面白いと言い切れる不思議な感性を持っている。それは同時期に帰国した山縣さん、玉井さん、ナカさん、堀内さんからは感じられない、坂部さん独特のものだと思います。
 違和感をぬぐえない一方で、高く評価している部分もあります。自分の作った作品に対して論理的かつ明瞭に解説できる話術の魅力は誰もが知るところだし、強烈な存在感と新しさを感じさせるピースもいくつか生み出してきた。知り合いの女子がファーストシーズンの変形ショールカラーのジャケットをよく着ているのですが、見る度に見とれてしまう。美しい服を作れるはずなのに、敢えてそれを避けているようにも感じていました。
 前置きが長くなってしまいましたが、11AWは彼がファーストシーズンから追求してきた秋葉原文化とモードの融合がはっきりと形として見えてきたシーズンだったと思います。チュールを幾重にも重ねて形成されたオートクチュール的な「でんぱ組.inc」の衣装は、地下アイドルにあるまじきクオリティで、彼が次代のAKB48を衣装から生み出す可能性を感じたし、陰鬱でダークな雰囲気の自身のコレクションと仮の姿を演じているアイドルの悲哀を重ねたのも良かった。でんぱ組.incとTO(トップオタ)のあまりのパワーにコレクションが霞んでしまったという声もありましたが、16世紀の歴史衣装にインスピレーションを受けたというジャケットはとても美しく存在感があったし、天に召された鳥のデカ刺繍のアイテムもクオリティ感が伝わってきた(前回のマックポテトは酷かった…)。過去の売れ筋を発展させたMD的な側面も見えたし、これまで定まっていないように見えたブランドの軸がおぼろげながら見えてきた印象を受けました。
 モードとオタクは水と油の関係です。今回のコレクションをきっかけにTOがミキオサカベの服に興味を持つかというと、それはまずないように思います。けれど、その逆はなんかあるような気がする。生で初めて見た地下アイドルとTOの共犯関係は、今のファッションの世界にはない“熱”があり、とても羨ましく感じました。ショー後の空気感からして、多くのモード関係者が未知との遭遇に興奮していたように思います。「既存のクールジャパンを利用し、その化学反応によってモードの世界を盛り上げる」という坂部さんの狙いがまっすぐに伝わってきました。

増田 海治郎 / 繊維ニュース 記者 

TARO HORIUCHI が普遍的、伝統的な物に目を向いているとすれば、彼は先鋭的で今を象徴する物に向かっている様に思う。
それは僕達が海外で学んで自らのクリエーションを考えた時に常にまとわりつくアイデンティティを執拗に追い求める結果から来る物。
デザイナーとして戦略的に他ジャンルとのコラボレーションと制作を行っているのはとても理解の出来る事であり今の日本のファッション界にとっても必要な事。
あまりにアート界や音楽界などの他ジャンルから分断されている日本のファッションシーンを見て
僕らがフラストレーションを持っている事は確かで、その状況をどう混ぜ合わせ打破する事が出来るかを彼は試みているんだと思います。
ショウは見た事の無い世界を見れたと言う事で言えば成功だったと思います。
ただ、コレクションと言うファッションデザイナーの仕事としては理知的な判断の上だとは言え、コンセプトを服への落とし込みがあまり見れないのが個人的には物足りなくは有りました。

堀内 太郎 / TARO HORIUCHIデザイナー

MIKIO SAKABEのコレクションを見るといつも20471120のことが思い出される。今回のショーでもそれは同じだった。このことは服だけの話ではなく、サブカルチャーを着想源とする手法、さらにはエンターテインメントとしてショーを捉える考え方も含めてである。
 もちろん細かな差異はいくらでも挙げられるが、それでもやはりMIKIO SAKABEに新しさはあまり感じられない。だが、これまで20471120をファッション史のなかに位置づける作業がなされて来なかったことを考慮すれば、デザイナーにその責任を求めるのは理不尽だとも言える。歴史のないところに批評は成立しない。今のファッションを正当に評価するために、まずは歴史の空白を埋める必要があるだろう。

蘆田 裕史 / 京都服飾文化研究財団アシスタント・キュレーター

誰のものでもないし、誰のものでもある文化を共有するための場。波をたてるのが目的だったDENPA!!!がDENPA!!!的なものに形骸化し、アニメ×ファッションがトレンド化し、超ライトオタクが許容された。アニソンがかかるイベントに催眠術やSMを持ち込んだDENPA!!!が異種格闘技だったように、今回のMIKIO SAKABEのファッションショーも異種格闘技であろう。
アニメ×ファッションは90年代のそれよりは容易に許容され、エンターテイメントになりやすい事を熟知した上での確信犯的なショー。ヲタ芸を生でみたいと訪れた人もいたし、でんぱ組をみるために訪れた人もいた。まさにエンターテイメント。
今回の異種格闘技が前衛にうつった人もいるだろう。前を衛るための前衛。カオスラウンジの大ファンであり、BALMUNG、JUNYA SUZUKI、HATRAらと行動をともにし、ネオコス展に参加し、夢眠ねむのファンである私自身の活動する場の前を衛るための前衛。
クールジャパンなどと呼ばれる現象にしても、日本が能動的に発信したのではなく、内向きに普通にやっていたことが、たまたま面白いこと探しをしていた外国人の目に留まり、再認識されたようなもの。日本人自身が今の自分を形作っているものは何なのかを、今一度じっくりと掘り下げ、見つめ直すところからはじまったクリエーション。
岡本太郎は昭和34年の著作「伝統論の新しい展開」の中で「われわれは見聞きし、存在を知り得、何らかの形で感動を覚え、刺激を与えられ、新しい自分を形成した自分にとっての現実の根、そういうものこそ正しい意味で伝統といえる。」
その上で「現実こそが、逆に我々を強力に限定し、規制している。」とも言っている。「つまり、たとえどんなすばらしい夢を描いたとしても我々が今日負わされているのっぴきならない現実、理想とはかけ離れた環境、ナンセンスでチマチマしたやりきれない現実に目をつぶることなく、まともにぶつかり、そこを通して実現しなければうそだ。」日本のファッションの未来を考える上でもヒントになりうると思う。
文化、芸術とは絵空事ではなく、人間の根源にあるものだとも思う。札束をかかえて最期をむかえても人は救われない。それより花に埋もれ最期をむかえたい。こんな時代だからこそ文化をいうものが重要なキーワードになるのかもしれない。
MIKIO SAKABEの存在がその文化の一翼を担う存在であることを願う。

小竹 一樹 / VEVEROPPARUUU / まるたん(カオスラウンジ)

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