“自分は本当はブランドをやりたいんじゃないか。自分の表現をすぐにでもやりたいんじゃないか」といつの間にか自問自答し始めていたんですね”
―writtenafterwardsを辞めるとなった時に具体的にその後のプランはあったんですか
幾つか仕事は決まっていてそれは委託的なことで企業と組んでものを作ったり、衣装提供であったりそういうところで仕事はあったんですけど自分のブランドを作るという考えはまだなかったですね。
―それはwrittenafterwardsを辞める前から決まっていたんですか
実際僕は2008年の12月に会社としては辞めていたんですね。デザイナーとしては3月のコレクションまで携わっていたんですけど。だから1月から自分の活動も始めていたのである意味writtenafterwardsにいながらそういう仕事は始めていましたね。
―自分でブランドをやろうと思わなかったのはなぜですか
Writtenafterwardsを辞めることに関して自分をもう一度一から見直さなければいけないと思いましたし、そういう状況でブランドを始めるのが良いことなのかも悩んでいました。もう一度自分の作りたい物をはっきり明確にしたうえで背景、生地屋さん、工場さんも含めて基盤から作りなおすことの方が必要だと思ったのでまだ時期尚早だと思っていました。
―具体的にブランドを始めるとなったのはいつですか
5月位(2009年)にいまインキュベーションをしてもらっている会社から話を頂いて実際ブランドに向けて動き出したのが6月からだと思います。
―話を最初にもらった時はどういう気持ちだったんですか
もらった時は「一度断ろう」と思っていました。でもお話を頂いた帰りの道で自分がブランドを始めたらこういう表現をしたいというのがどんどん出てきてそれが凄く楽しくなって「自分は本当はブランドをやりたいんじゃないか。自分の表現をすぐにでもやりたいんじゃないか」といつの間にか自問自答し始めていたんですね。山縣は僕のやろうとしていたことはわかっていたので相談したんですけど彼は「まだ自分の名前を出すのは危険なんじゃない?まだ早いんじゃないか」と言ってくれたんです。ただそれでもやっぱりやりたいなと思って始めました。
―最初からブランド名『ASEEDONCLOUD』は決まっていたんですか
決まっていなかったですね。
―でも自分の名前をブランド名にしたくないというのはあったんですか
そうですね。まだ玉井健太郎としてのもの作りは違うかなと思いました。何か一つコンセプト、考え方を持ってその中でもの作りをもう一度始めようと思ったので。
―周囲からは元writtenafterwardsの人が始めたブランドって思われますよね
どうですかね。あまり自分のことを客観的には見れないので。でもそれは付いて回ると思いますね。自分でも「元writtenafterwards です」といいますし。勿論Margaret Howellにいたというのも、セントマーチンにいたというのも僕にずっと付きまとう名刺なのでそれはしょうがないですね。僕はプラスに考えていますけど。
―ブランドが動き出してからすぐにデザインのイメージは浮かんだんですか
やろうと思っていたことはお話をいただいた帰りにあったのでその延長ですね。それこそ自分がwrittenafterwardsを辞めるきっかけになった自分の好きなものもありましたし。どうしてもデザイナーの原点て卒業ショーだと思うんですよ。そこで何がやりたいのかというのが集まるものでそこはどうしても不動というか変えられない自分の背負って立つものだと思うんですね。僕も実際そうだったしそこの続きというか。無理のないもの作り、自然に自分の中から出るものから表現したいなと思ってブランドを考えている時はその話の続きをどんどんやっていました。
―話の続きと言えばwrittenafterwards(あとがき)となりますよね
そうですね。やっぱりそこ(writtenafterwards)で表現していたことって山縣に遠慮していた、逃げていた部分もありますけど、デザインの発展の仕方的には自分に無理していたわけではないですし、自分の方法でやっていたのであまりwrittenafterwardsでやっていたデザインの発展の仕方とは変わっていないですね。
―ブランド名が決まったのはいつ頃ですか
8月位だったと思います。
―なぜASEEDONCLOUDという名前だったのでしょうか
卒業ショーもそうですけどもう一回自分の原点というか色濃く自分らしさを出したいなと思った時に自分の原点とはなんだろうって考えてその時に幼稚園に描いた絵本があったんです。それは自分の一番最初に描いた作品ですよね。だから純粋にこれを英語のタイトルにしてブランド名にしようと思いました。
―新しいブランドではメンズウェアーだけでなくレディースもやっています。それはなぜですか
最初はメンズメインで考えていました。レディースを作りたくないわけではなくレディースも作りたいんですけど自分がものを作る上で自然なのはメンズなんです。でもインキュベーションしてくれている方のリクエストでレディースも作ろうということだったのでその中で自分の嘘偽りない表現方法としてメンズからのユニセックス展開でのレディース提案というのが無理が無いかなと思って作りました。
―パターンはどうされているんですか
多少女性ボディーに合わせていますけど失礼な言い方かもしれないけど胸の無い女性が似合う服になっています。実際僕が好きな女性ってそうだったりするんですよね。メンズ服を着ている女性というか。スカートはいて、ハイヒール履いている女性よりもパンツはいてコート羽織ってペッたんこの靴履いている女性の方が思いつくんですよね。
―自分の理想の女性像に近いレディースということでしょうか
そうですね。自分の理想の女性像って少しずつ時代によって多少なり変わってくるので一概にそうだとは言えないですけどイメージしやすい女性像というか、普遍的な女性像としてはありますね。
―パターンは自分でやられているんですか
パターンは外注です。多分本当は自分でパターン引いて、自分でデザインして、自分で見てやっていく形が一番理想的だと思います。向いているベクトルも一緒ですしそこにかけるラインというのも自分なのでいいとは思うんですけど、でもプロダクトとして完成されたものそういうものに僕は魅力を感じたり、Margaretの影響もあるんですけどクラフトマンシップというか職人的な仕事に憧れたりするんです。僕がパターンを引くというのもある意味安易だと思うんですね。そこはそこでパタンナーとしてプロでやっている人がいるじゃないですか。でも常にパターンを手掛けていて熟知している人とコミュニケーションとってその人となるべく同じベクトルを向けさせてもの作りに入れる方が自分にとって正しい方法な気がして。最終的なものとして美しいと思うので。パタンナーさんもそうですし、グラフィックもそうですしそれぞれのプロっているじゃないですか。それは自分の意見も勿論いれて、なるべく自分と同じベクトルを向けさせるのが大事ですけど自分がやる仕事じゃないのかなって思います。なのでパタンナーさんは僕も勿論、下請けとしての見方ではなくデザイナーとして一緒にやっているという気持ちでやっています。
―メンズウェアーに関してはどのような部分を意識されましたか
メンズウェアーのこだわりとしては自分が着たいものもあります。1mm,2mmをこだわって1mm,2mmをこだわらない服というか。やっぱりポケットの位置も多少ずれてくるとテースト変わりますし、ボタンの位置もずれてくるとテーストが凄い変わってくるじゃないですか。自分の理想の形に繋げていかなきゃいけないんですけど、でも1mm,2mmってパタンナーさんの技量であったり、縫製によってもずれてくるレベルじゃないですか。だからそこをこだわりながらも作った人の雰囲気を残す服というかそういう服を作りたいなと思います。
してますね。学生時代からリサーチは欠かしていないので。でも今回はもう一度自分を構築し直す為にどちらかというと広げるリサーチというよりも深さを掘るリサーチというかもっと自分の好きなところを掘るリサーチという意味合いの方が強かったですね。
―元々今回のテーマである19世紀後期から20世紀初頭の洋服が好きということですか
そうですね。その頃の衣服ってどちらかというと何か装うというよりも機能的なものというか無駄が省けているものが多いじゃないですか。そういうものの方が今は新しいというか。今って200年という歴史の中で構築されてきた服に対して時代性をプラスして機能性というよりもラペルの形を太くしたり、細くしたりその中でパターンをいじっている状態ですけど機能性からくる美意識というかもっと根本的な服のあるべきものの方に興味を持ってそれの原点を調べていましたね。
―ASEEDONCLOUDはどういうブランド像にしたいですか
特別であって特別でないものですね。その中で自分のユーモアだったり色々な要素を加えていかなければいけないと思うんですけどそこにあって自然な服というか、主張しすぎない服というか。
―毎回職業は変えるわけですよね
そこをメインにうっているわけではないですね。元々その機能というものの方が自分の中で重要なのでそれを当て込む為に何か自分なりに気になる職業であったり、そういうのを選んでそういう人がいるのであればこういう機能を加えてもいいんじゃないのかという発想の中でやっています。だからベストは次、例えば釣り人をやるとするじゃないですか。そしたら釣り人を自分が一回やってみたいんですよね。実際そこまで時間が無くて出来ないんですけどそういう経験もしないといけないなと思いますね。リサーチ期間というのはちょっとそういう体験もしてみたいなと思います。
―花屋さんはやったんですか
6月に始まって全て考えなければいけなかったのでそこまで出来なかったんです。だから今回やってみて反省点じゃないですけど花屋一回やってみてからやった方がもっと深みのあるものになったのかなと思いますね。
―なぜ今回は営業中の花屋さんで展示を行ったのですか
凄い自然だからですね。表現としてコンセプトに合っているというのもありますし、生活の中にある服というか凄い民芸的な考えですけどそういう空間にあって無理のないものを自分の中に求めているので花が置いてあって服が置いてある、じゃなくて花屋がちゃんと稼働している中に自然にそのものがあるという方が自分の表現方法として正しいのかなと思いました。展示会、個展で自分の服を見せるというよりも自然にその空間にあるという方が性に合っていると思ったんですよね。
続く