Interview

Akira Naka 4/4

“アパレルの伝統とか常識というものを一度外して、顧客にもっと純粋な形でコミュニケーションをしたいと考えています”

‐将来的にはメンズをやりたいという気持ちはありますか

あります。ただ時期を考えてということになります。全くレディースとは別物になると思います。僕は女性に対しては敬意を持って洋服をアプローチしていますが、メンズになった場合自分個人のテイストを完全に隠してということは不可能なのではないかと思います。ただ、私がメンズを作ってそのメンズを純粋にどれだけの人が着たがるかと考えると日本では少ないかもしれません。

‐ショー後のインタビューで今の社会性を意識しないで物作りは出来ないと語っていました。ファストファッションが隆盛の時代でラグジュアリーは苦戦しています、どう考えていますか

私は今のこの一連の動きを凄くフレッシュだと思います。ファストファッションにネガティブなイメージは無いですし。社会がそれを良しとしてますし、楽しんでいる。生まれるべきして生まれたものという感じでしょうか。でもそれを私はモードだからといって無視はしないですし、デザイナーは常にデザイナーであり社会の一員であるべきだと思います。デザイナーが社会の一員でなくなった時点でその人は時代から外れていくと思います。自分の視点のみで物を作っていくとすればそれはコミュニケーションにはなり得ない。それはアートの領域であり私にとってはデザインではないのです。でもデザイナーというのは常に誰かに向けて何かを作っているわけでその人は2007年に生きているわけでもなく2015年に生きているわけでもなく2010年に生きているわけで、それならその人の背景を無視するということはデザイナーとしてはおかしいことだと思うのです。だからといって2010年のことだけでなくその先のことを提案していかなければいけないわけなのですが。私達は女性(人)に向けてアプローチしているのであって服とのやり取りではない。それであれば女性が生活しているシーンを無視しているということはその女性自身を無視するということだと思います。答えというものは私の中にあるものではなく社会の中にあると思います。それを良しとするかどうかという事も。勿論私の中でも答えは出しますが最終的に決めるのは彼女達だと思います。

‐クリスチャンとして生まれ生きてきた中でデザインに与える影響というのは大きいですか

凄く大きいです。物心ついた頃から毎週ミサに行ってるので自然と女性に対する啓蒙じゃないですが尊敬の念があると思います。クリスチャンの中では女性はとても純粋で特別な存在。西洋では神格化されることも多いのです。そこに対する敬意というものは小さい時から養われてきました。女性の見せ方にしても表面的なものというよりは彼女達が持っている神秘性だったり、荘厳さであったりとかそういうものに切り込んでいきたいと思っています。ボッティチェリの絵画にみられるような。そういう点でヨーロッパにはそういう洋服がありますし、そういう洋服を纏える機会があります。例えばパーティに出かける時普通にドレスを着る。みんながそうですし、そういう自分を楽しめている。でも日本にはそういう機会が凄く少ないと思います。そういう環境からも日本の男性はシックな女性を見る機会が凄く少なくなっています。女性がもちうるエレガンスや高貴さに触れる機会が少ないのです。結果的に(全てではないですが)日本の男性の女性を見る目は海外と比べて幼い。逆に女性にもっとそういう機会があれば男性の女性を見る意識というのも変わっていくと思う。そういうところに働きかけていけたらと思います。

‐コレクション作りを始める時はテーマを最初に決めるのですか

テーマではないです。シーズンの中で自分の惹かれるものをまとめていく中でまず女性像というものを作り上げて行きます。それで私と(ミューズとする)女性でその後のデザインの方向性を決めていくという感じです。自分で打ち出したいものでもその女性像にはまらなければ出さない。2つの考えを大切にしています。

‐09A/Wからwrittenafterwards, MIKIO SAKABEの2ブランドと共にショーを行っています

デザインではなく何かの方法論を打ち出す時というのは矢が一本よりも何本もあった方が良いと思います。作風は違いますが、違うからこそファッションの多様性を見せる事ができる。クリエイションに対する姿勢、コアな位置での考え方は共感できますし彼らの作品に敬意を持っています。今この時代にあってファッションというものが偏った見方をされ始めてきていると思います。それをもう少しニュートラルに戻すには個人の提案ではなく色々なデザイナーがその形にどうアプローチするかを見せる事が必要ですし、それが面白さに繋がると思っています。

‐そのプロジェクトは成功だと思いますか

成功だと思います。勿論全てではないですが一つのプロジェクトで全部に満足してしまうのは逆にまずいですし。ただ私の中ではバツの数よりも確実にまるの数が多かった。だから成功だったと感じています。

‐挑戦的な部分も沢山あったと思います

今回体育館で自分の服を見せるということに関しては多くの人から指摘を受けました。ただ、格好良い言い方をすると「デザイナーは服を作っているだけなのだろうか?」という思いがあります。やはり私達はヨーロッパで学んでいるのでそういう意識が比較的強いと思います。デザイナーの社会に対しての位置づけとか。
四川地震が起きた時にある企業の社長がお話していたのですが「今のJFWのデザイナー、組織は次の会場が何万だ、お金がないからどう作るかばかり考えてるが、俺達がデザイナーと動いていた頃は地震が隣国で起きた時はすぐにデザイナーが集まってチャリティでものを作ってクリエイションやデザインが社会に対して何が出来るのかを証明してきた。しかし今は数字の計算しかしない。デザイナーの社会に対する位置が変わってしまった」と。「自分にもあてはまる」と感じました。
その面では小さいことですが今私達が出来ることは出来る範囲でやりたいと思っています。広い視野を求められていると感じます。

‐それがThis is Fashionに繋がったと

はい。まだスタートしたばかりですが。またThis is Fashionは3人でやるわけではなく、もっと色々な方が参加して下さる事を願っています。あくまでこれは新しい人、事象、物を発表する場であれば良いと思っていますし、そのクオリティを高く保つ事が最優先だと考えています。彼ら(writtenafterwards, MIKIO SAKABE)はよく考えていると思います。ただ私達3人のアプローチはそれぞれ違う部分があると思います。

‐This is Fashionに加えたいという点で気になるデザイナーはいますか

個人的にはエモモナキア(et momonakia)。他のフィールドであれば音楽からも新しい提案ができる方がいれば面白いと思います。

‐それはなぜですか

海外から帰ってこられた方の中には日本のものづくりを向こうでも続けられた方と、一度それを置いてヨーロッパのスタイルや感覚を身につけてこられた方がおられます。そういう意味で彼らからはヨーロッパの匂いを強く感じます。

‐ファッションの今後を考えたりはしますか

『未来』というよりもこれからを見つめた上での『今』を考えています。

‐生徒に刺激を受けることはありますか

あります。貪欲さであったり、ものに対するアプローチであったり。『時代感』という部分で常に僕の常識が今の常識じゃないというのを何度も感じました。最近「革命をおこしたデザイナーは」という質問をした時にある生徒が『SONY』と答えました。それはファッションとは違うフィールドだという意識があったのですが、学生にとってはそれも含まれていた。SONYが残してきたものだとか音楽の関係性だとかそこも確かにファッションだと。

‐自分が学生だったときと比べてどうですか

ひとくくりにする事は難しいです。ただ全体的に保守的だと思います。何か答えを早く求めてしまう、すぐに答えが見えないものに怖さや抵抗を持っているように感じます。そういう面で堅実さはあると思います。企業では堅実さは大きな武器になると思います。
今の学生はスタイリングがとても上手いと思いますが、そこに自分のアイデンティティーを表現したいという感覚は少ないように思います。学生の違いというよりも時代性の違いが大きいと思います。

‐日本では洋服は世界で類を見ないほどありふれていますが本当のファッションに触れる機会は限られていると思います。ショーも閉鎖的ですし

This is Fashionではそこを変えていきたいと思っています。アパレルの伝統とか常識というものを一度外して、顧客にもっと純粋な形でコミュニケーションをしたいと考えています。

‐いつまでも固定概念に縛られる必要はないのかなと思います

そう思います。不況も何か新しい物が必ず生まれる時代なので。デザインとかクリエイションとかそういうものがヨーロッパではすぐ身の周りにあって色々な恩恵が社会に生じています。日本はまだそれを生かし切れていないと思いますし、娯楽や趣味の位置に留まっている気がします。もっと色々な人にデザインやファッションというものが生活や心を豊かにしていくという事を伝えていきたいですし、そういう仕掛けを作っていかなければと思っています。

Photo:Takahito Sasaki Interview & Text:Masaki Takida

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