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MASATO ASHIDA

蘆田 暢人

建築家
1975年 京都生まれ
京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了
内藤廣建築設計事務所を経て独立

蘆田暢人建築設計事務所 代表
ENERGY MEET 共同主宰

e-mail: mstashd@gmail.com
twitter: @masatoashida

FashionScape

先日、オペラシティの「感じる服、考える服展」に行ってきました。
10組のファッションデザイナーによる意欲的な展示は実に刺激的でした。

展示計画は建築家の中村竜二氏によるもの。展覧会における区割りのあたらしい方法を試みられていました。
全体としては、ギャラリー自体のサイズと展示作品と展示計画がそれぞれにややかみ合ってない印象を受けました。
オペラシティのハコ自体については、言っても仕方ないところもあるので、ここでは触れません。

展示計画それ自体はすばらしいと思います。技術的にもかなりハイレベル。一見さらりと作られているように見えますが、簡単にできるようなものではありません。しかしながら、今回の展示作品との関係性がうまく構築されていたかというと、あまりそのような感じは受けませんでした。

くぐらなければ超えられない高さに梁が設けられていることで、鑑賞者は展示空間への身体的な参加を促されることになります。
「見る」という行為の美術館における特権化に対して、鑑賞者に身体への意識をさせ、通常の鑑賞とは異なった体験をさせるような演出をいとしたのでしょう。
しかしながらこの新しい鑑賞の体験は、作品との間に生まれる体験というよりは、この展示計画との間に生まれているように感じられました。端的に言えば、ファッションの展示でなくてもよかったのではないかということです。

始めは、展示空間に「身体性」を持ち込むと言うことが、ファッションとの関連なのではないかと思ったのですが、自分が「梁をくぐる」という与えられた行為を繰り返すうちに、この行為から生まれる「身体性」に違和感を覚えました。
少なくともファッションの身体性とは違うという違和感だったんだと思います。
どちらかというと舞踏的あるいは演劇的な身体性だと思います。舞台衣装の展示ならよかったかもしれない。直感的ですが。

せっかくファッションの展示をするのならば、ファッションでしかできないこと、あるいは普段触れられないファッションの世界を体験できるような展示空間を作り出す方が魅力的な気がします。たとえば普段なかなか参加することのできない、ファッションショーの空間を疑似体験させるような企画など。
唯一試着ができたまとふは、ファッションの体験を展示につなげた例といえるでしょう。

展示作品はそれぞれのデザイナーの世界観が表れていて、大変興味深かったです。
大きく分けると批評系と物語系に分かれるのではないかと思います。
ただし、ミントデザインズなどはそのどちらにも当てはまらず、むしろグラフィックデザインと通ずるような印象でした。

批評系とは、アンリアレイジやケイスケカンダのように、既存の制度あるいは社会に対して別の視点を新たに提示するようなクリエイション。
物語系とはシアタープロダクツやh.NAOTOのように独自の物語をその場に出現させるクリエイション。
リトゥンアフターワーズはそのどちらも包含するような展示でした。

また、非常に関心を持ったのは、それぞれのデザイナーの技術の高さでした。ソマルタのシームレスなニットの技術は、素人目にも非常に高い。
シアターのハイテクを駆使した展示も技術への志向を感じましたし、他のデザイナーも、それぞれが高い技術を持って創作活動を行っているのがひしひしと伝わってきました。

欲を言えば、ここに作り出されている世界の先をもっと見たいと思いました。
それは、それぞれのデザイナーの作品が都市を、あるいは社会を席巻したとき、そこにはどういった風景や人間関係が生まれるのか、それをデザイナーはどう思い描いているのかというヴィジョンです。
もちろん、実際にはそんなことはあり得ないでしょう。(ユニクロなどはかなり席巻していますが・・・)
建築も同じです。一つの町が一人の建築家のデザインで作られるなんていうことは、現代ではありえません。
しかし、それでも一つの思想として、あるいは理想として、そんな絵を描いたりします。それは、単体では社会に対して力を持ち得ない建築を、社会に対して投機するための建築家から社会へのメッセージのようなものです。

ファッションデザインでもそういった「風景」を見たいと思いました。風景は単体では作れません。現代あるいは未来の社会におけるファッションから照射される風景。いろいろなデザイナーにそれぞれの「FashionScape」を描いてもらいたいと感じた展覧会でした。

いろんなことを書きましたが、こうやって展示を通していろんなことを考えることができた、ということはこの展覧会は成功だったのではないかと思います。

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