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HIROSHI ASHIDA

蘆田 裕史 / Hiroshi Ashida

1978年、京都生まれ。 京都大学大学院博士課程研究指導認定退学。
ファッションの批評誌『fashionista』編集委員。
京都にある某ファッション系研究機関でキュレーター。
e-mail: ashidahiroshi ★ gmail.com(★を@に)
http://twitter.com/ihsorihadihsa

『fashionista』の情報は↓
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Etw.Vonneguet、リアルとヴァーチャルのあいだに

2009年に起ち上げられ、歌手Salyuへの衣装提供やJapan Fashion Weekへの参加など着実に足場を固めつつあるブランド、Etw.Vonneguet。原宿でゲリラショーとして行われた2010春夏のデビュー・コレクションに続いて、同年の秋冬コレクションは映像作品「CWOOKD」として発表された。以下、この映像を分析しながら、Etw.Vonneguetというブランドについて論じてみたい。

冒頭で映し出されるのは、コック帽を目深に被り、表情が隠された一組の男女の料理人がテーブルに向かい合って座り、食事をしているシーンである。だが、ナイフやフォークからワイングラス、皿に盛りつけられた料理まで、テーブルの上にあるのは紙に描かれた記号、言ってみればヴァーチャルなものでしかない。一方、その奥には白く塗られたワインボトルが対照的にリアルなモノとしてある。そこで淡々とヴァーチャルな食事を続ける二人。そこに毒々しいまでの赤いケーキが現れ、突然食物がリアルな存在として現前する。

一見、何を言わんとしているのか理解しがたいこの映像作品は、コレクションのイメージの提示としてだけでなく、Etw.Vonneguetというブランドの態度表明として理解することができるのではないだろうか。

リアルな道具でありながら、決して道具として使われることのない木槌と電動ドリル。木槌は一度だけ女性が男性に向かって振り下ろされようとするも、その行為が遂行される前に時間が戻されてしまう。一方、道具として使われているように見えるものの、あくまでヴァーチャルなものでしかないがゆえに空虚さが強調されるナイフとフォーク。さらに、毒々しいまでに赤いリアルなケーキは、ピンセットのようなもので形を崩され、男性の口に運ばれていくかのように見えるが、その行き着く先が明示されることはない。つまり、これらリアルなモノとヴァーチャルなモノはおしなべて宙吊りの状態に置かれているのだ。両者のこの拮抗した関係は、「『生と死』『整合と矛盾』といった対極にある要素を統合し、次の段階へとシフト(止揚)させることをコンセプトとしている」(註1)Etw.Vonneguetのスタンスそのものであろう。

Etw.Vonneguetはデジタルツールによって制作された衣服をiPhoneのアプリなどで発表すると同時に、リアルなファッションへのアプローチも行っている。CGによる衣服の提案だけでは、実際にその衣服が着られることはないが、アヴァターが一定の認知度を得ているヴァーチャルな世界のことを考えれば、そこには様々な可能性が秘められているだろう。その一方で、デビュー・コレクションで顔全体をマスクで覆ったパフォーマーたちにストリートを歩かせたように、Etw.Vonneguetは現実社会との関わりを捨てることもしない。このEtw.Vonneguetというブランド自体が、「CWOOKD」においてその行き着く先を探し求め、存在の様態を模索していたモノに表象されていると言えるのだ。

リアルとヴァーチャルの狭間で揺れ動くEtw.Vonneguetが行き着く先は、果たしてどのように止揚された世界なのだろうか。

(註1) ブランドのプロフィールより。


これは2010年に京都造形芸術大学空間演出デザイン学科の成実・水野ゼミが発行した『ファッション・クリティーク』(vol. 01)というZINEに寄稿したものをちょっとだけ修正したものです。

いつもいつも、自分が過去に書いたものを見るのは恥ずかしくてたまらないのですが(だから校正も苦手だし、掲載誌は直視できません)、今月号の『新潮』(あと3日後には次号が出てしまうのでお早めに!)に書いた話(写真を使ったファッション批評)の一例になるかなあ、と思って載せました。

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