“凄い格好良くて。それがビジョンだと思うんですよね”
‐アントワープの4年間でデザインしようと思っていたものは変わりましたか
毎年変わりますね。何か毎年やっていないものをやろうと思っていますけど。
‐結局メンズウェアになったんですか
メンズを中心にやっているんですけど実際writtenafterwardsではwomenswearをやっていますからね。個人的には両方凄く好きだけ ど。
‐特別メンズがやりたいというわけではないんですか
メンズの方が現実的にはやりやすい。でも女性服の方がちょっとかけ離して出来るから面白いかなとも思います。
‐アントワープを卒業してからは何をされていたんですか
卒業してからは1シーズンNYのThom Browneのところで働いてました。
‐それはThomのデザインが好きだったからですか
そうですね。とりあえず行って話してみたいなと思ってメールしたんですけど全然メール帰って来なくてどうしようかなと思って、でもNYに行くと決めてメー ルしたら返って来て。会ってみるということになってディレクターの方と話したら凄い気に入ってくれたんです。1シーズンやって日本に帰ってきました。
‐Black Fleeceもやっていたんですか
それは別なんですよね。(Mocler)Gamme Bleuはやりましたけど。
‐Gamme Bleuのショーをミラノで見たんですけど凄い良いショーを見たなって思いましたね。2009年で見たメンズの中ではダントツに良かったですね
まず着れる。プレゼンうまい。それもThom自身凄く考えているんですよね。Gamme Blueの時もタイプライターの時もどうやって見せようと言ってて結局最後は自分で決めるんですけど。凄いモダンだし、フレッシュだし。
‐やっていることってそんなに新しいことじゃないですよね。でもプレゼンの仕方だったりで凄いなって思いましたね
そうですね。やっぱりほんとうにエンターテイナーだし、ファッション大好きだし、それはもうそこに出ていますよね。
‐そこで影響をうけたことはなんですか
Writtenafterwardsのアトリエで座って「ああいうのやろう」とか「こういうのやろう」と話しているのとそんなに変わらないですね。 Thomのとこもみんなでテーブル座って「ああやろう」、「こうやろう」といって凄く楽しい。ただアイデア投げているだけだけど「こういうのあったらいい ぞ」とかほんとに基本の基本だけどそこが一番自分はいいとこじゃないかなと思います。デザインのアトリエとして。
自分の作品を彼に見せた時に「これは良すぎる」って言われたんですよね。その時に凄いなって思いましたね。自分はこの人は良いものをわかる上でかつそれを あえて使うのではなくそれは自分ではないという部分も見えてる。普通人に見せると「これはこうしたほうがいいんじゃない」とかそういう感じが多いと思うん ですよね。そうじゃなくてこれがいいというのがわかった上でこれは違うと言えるのが凄いんですよね。
‐ファッションに対する情熱も凄いんですか
凄いし眼が凄く良い。それにほんとうに自分はどういうものなのかというのを凄いわかっています。
‐彼の手掛けたショーは見られたんですか
見てないですね。行けなかったんですよねイタリア(Pitti Uomo)に。ビジョンがとにかく格好良いんですよね。アトリエがNYのマンハッタンにあるんですけど木のドアで、入った瞬間にマフィアのオフィスみたい でみんなスーツ着てて、制服なんですよね。凄い格好良くて。それがビジョンだと思うんですよね。
‐デザインする時もスーツなんですか
勿論。常にですね。四六時中。ベストもだしみんなあの格好なんですよ。
‐やっぱり丈も短いんですか
短いですね。だから普段仕事以外でチームの人と会うと「えっ」って格好している人もいますね。でもそれがそのアトリエの空気を良くしていますね。それも彼 のビジョンの一つなんですよね。
‐福本さんもその格好でやられていたんですか
自分は研修だったからそうではないですけど出来るだけ害さないような格好はしていました。でもそれを見てて凄く良いなって思っていました。ランチに行くと きもみんなでその格好で行きますからね。
‐ボウタイとかしたりしているんですか
みんなタイをしてタイピンもしていますね。ポケットチーフも入ってるし冬だったらジャケットの上に各自コートを着て。ニットキャップだけは自分のやつなん ですよね。だからキャップだけ個性はあるんですけどあとはスーツ。ロックバンドじゃないけどそんな感じですよね。
‐Thomの後は何をされてたんですか
とりあえず人のうちに居候して衣装の手伝いとかしていました。家が無かったからとりあえず家を借りようということで9月から家を借りて。片手間に仕事をし つつ、最終的に自分でメンズでやりたいから少しずつ温めてはいますけど。
‐同級生の唯馬君みたいに卒業してからすぐにブランドを立ち上げるということは考えなかったんですか
考えないですね。まずやっぱり金銭的な部分ですよね。自分は学校に行くのに借金を作ってしまったのでそれにブランドを立ち上げるとなると借金プラス借金で すよね。生活感のある話だけど実際そうですからね。本当に恵まれた人だけ卒業してからすぐにデザイナーになれると思います。
‐他のデザイナーの下で経験を積みたかったという部分もあるんですか
少しはありますね。今でもベルギーとかからオファーも来るんだけど結局ビザの問題だったりするので、でも日本にいるともやもやして自分の作りたいものが出 てくるしこのままここでじっくりやった方が良いのかなって。
‐みなさんアントワープという街はデザインに向いていると言うんですけど向こうに留まりたいという気持ちはなかったんですか
向いているけどやっぱり5年いたので。あと自分のをやるとなった時にベルギーでは絶対出来ないですからね。到底不利だと思う。やっぱり言語もわからない。 ある程度馴染めたとしてもそれ以上はいけないですね。
‐今は目に見えるデザイン活動というのはwrittenafterwardsだけですか
そうですね。
‐なぜwrittenafterwardsでやろうと思ったのですか
山縣君のことは10年以上知っていますし原始的な感じなんですけど「いも掘りしていて足りないから来てよ」みたいな、そのくらいの感覚ですね。堅苦しくな く。言われたのは前回のショーの後です。彼はThom Browneに負けないくらいの良いビジョンを持っているし、自分もそっちに少しは労力を費やしてもいいかなって。
‐writtenafterwardsでやるデザインは自身のテースト、writtenafterwardsどちらに近くなりそうですか
完全にwrittenですね。でも彼は僕の作品を凄く好きだし、だから本当は自由にやってもいいのかもしれないですけど自分的にはwrittenを意識し てデザインしていますね。最終的に彼は絶対に期待を裏切らないものを持ってくると思いますね。彼はみんなが期待しているのも知っているし。彼は変態だか ら、自分は逆に変態ではなくちょっと変くらいだからそういう人が逆にいた方がいいかもしれないですね。
‐今は自分のデザインはやられていないんですか
メンズウェアを脇で少しずつ進めていはいるんですけど、でも今すぐとかではないし少しずつでも準備はしておいた方がいいのかなって思っていますけど。
‐日本に帰って来てから変わったことはありますか
ありますね。疑問だらけの部分は変わらないですけど
‐帰って来て一番感じたことはなんですか
(8年間海外に行っていて)まず自分が変わったことに気づきましたね。他の人とずれていることに。実際今はデザイン活動以外にパートの仕事もしているので 普通の人と接する機会が多いんですけどそういうのは凄く感じますね。8年前とかそのちょっと前の自分ではないんだなって。あと歳取ったなとかは思います ね。
‐それは性が無いですね、僕も感じます
友人に「最近納得いかないことが多いんだよね」って言ったら「それ歳取っただけだよ」って言われて。でも違う気もするんですよね。何かその中で比較するも のがあるから疑問に感じるだけであってそれは一概に歳をとったからとは言えないと思うんですよね。
‐ファッションのシステムも全然海外とは違いますからね
違いますね。今まで東京にちゃんと生活したことが無かったので凄い不思議な感じですね。家があるというのもまず不思議なんですよね。というのは(アント ワープ)大学卒業してから家なき子ではないけど1年くらいずっとスーツケースで生活していたから。NYもずっと家なき子で知り合いの家に住んでいたから スーツケースで生活するのが普通だったんですよ。日本に帰って来てからもずっと知り合いの家に住んでいたので。ずっとその間スーツケース。で急に家がある となんか怖いんですよね逆に。
‐デザインがしづらくなったということでしょうか
デザインしづらいというよりは地に足がついて怖い。逃げられない怖さですよね。みんな凄い人の目を気にしているのが見えるんですけど、逆に自分が全然人の 目を気にしていないのもなにか不思議だなと思います。それが人にどう映っているのかなっていうのは凄い興味深い。自分は凄いしょぼい普通の自転車乗ってい るんですけどぱっと周りの人を見ると凄く気使っているんですよね。「凄い良い自転車乗っているじゃん」って。
続く