ノイズ/インダストリアルの草分け的存在であり(スロッビング・グリッスルと並んで、二大巨匠のひとつ)、ポストパンク時代において、もっとも重要なバンドのひとつに挙げられるキャバレー・ヴォルテール、通称キャブスはファンク、テクノ、ダブ、ハウスといったダンス・ミュージックをインダストリアル・ミュージックと合体させた初めてのアーティストである。そしてその流れは、現在もジェイムス・マーフィー(LCDサウンド・システム、アーケイド・ファイアの新作プロデューサー)、ナイン・インチ・ネイルズといったアーティストに多大な影響を与えている存在である。
今回メンバーのリチャード・H・カークの監修の元、リイシューされる名盤『ザ・クラックダウン』を初めとする3作品は、当時、圧倒的な評価に加え英「NME」の表紙を飾るなど人気も兼ねそなえていた時期のもの。リマスターされた30年前の音源はびっくりする程、現在でも最先端を感じさせるもので実験性あふれるエレクトロ・ミュージックの礎となった作品、という評価を実感できる。欧米では、クラブ・カルチャーを拠点にインダストリアル・リヴァイヴァルが拡大している現在、エレクトロニック・ミュージックの世界の潮流を作ってきた〈ミュート〉レーベルが、この名盤の再発を仕掛けることにより、本作が脚光を浴びることは勿論、インダストリアル・サウンドが世界の大きな潮流になっていく事は想像に難くない。
商品概要
The Crackdown / ザ・クラックダウン (‘83年作品)
ダンス・ビートを取り入れたインダストリアル・サウンドを確立した最初の作品としてロック史に名を刻んだ作品
リードトラック「Just Fascination」
試聴リンク https://www.facebook.com/TrafficLabel/posts/331307947013206
Micro-phonies / マイクロフォニーズ (‘84年作品)
前作で新たに確立したスタイルを元に制作され、シングル「センソリア」「ジェームス・ブラウン」がヒットした。
リードトラック「Sensoria」
試聴リンク https://www.facebook.com/TrafficLabel/posts/331308367013164
The Covenant, The Sword and the Arm of the Lord / カヴァナント、ソード・アンド・アーム・オヴ・ザ・ロード (85年作品)
ダンス・ビートを取り入れたサウンドを極めた作品。シングル「I Want You」は彼らを代表する曲。フィル・バーンズ(FACE等を手がけたUKで最も影響力のあるアートディレクター)によるアートワークも話題を呼んだ。
リードトラック「I Want You」
試聴リンク https://www.facebook.com/TrafficLabel/posts/331309220346412
各作品とも2013年11月6日発売 スペシャル・プライス2,100円(税込)
紙ジャケット/リマスター音源/ライナーノーツ付/歌詞対訳付 発売元:Traffic
■BIOGRAPHY & STORY
73年結成。シェフィールド出身。オリジナル・メンバーはリチャード・H・カーク(guitars, keyboards, tapes)、スティーブン・マリンダー(vocals, bass, keyboards)、クリス・ワトソン(81年に脱退/ keyboards, tapes)。79年にデビュー・アルバムをリリースし、15枚のスタジオ・アルバムをリリースしている。95年以降は活動休止中だが、最も再結成が望まれるバンドのひとつ。
バンド名はもちろんダダイズムの拠点に由来するが。カットアップと呼ばれる切り貼りの手法を音楽に取り入れて、テープを使ってさまざまなノイズを合成し、初期の頃はライヴをすれば客席からぶん殴られるほど挑発的だった。
1978年、スタジオにミキサーとマルチトラック・テープレコーダーを手に入れたキャブスは、商業主義に惑わされずにやりたいことをやる自由を手にした。このやり方が、1990年代のエイフェックス・ツインやオウテカなどのベッドルーム・テクノの基盤となった。ちなみに、初期のキャブスと行動をともにしていたのが、ヒューマン・リーグ/ヘヴン17のメンバーたちだった。
そして1978年の秋にラフトレードと契約すると、今日、ポストパンクの代名詞とも呼べるシングル「ナグ・ナグ・ナグ」をリリースする。1982年には初来日公演も実施。会場であるツバキハウスは超満員で、その時のライヴ録音は、『Hi!』というライヴ・アルバムでリリースされている。
いまだに評価の高い、1983年の『ザ・クラックダウン』以降は、ダンサブルなビートをモノにして、ヒットチャートさえうかがえるインダストリアル・サウンドを確立した。デトロイト・テクノの雄、デリック・メイをリミキサーとしていち早く起用したのも彼らである。また、アシッド・ハウスの時期は、リチャード・H・カークが地元に誕生した当時はまだ若いレーベル、ワープのためにスウィート・エクソシスト名義で作品を出して、テクノ・ムーヴメントの盛り上げにひと役買っている。
テクノが拡大した1990年代前半は最初の再評価が起きて、ヴァージンからリメイクされたベストが出ている。そして、2002年のポストパンク・リヴァイヴァルにおいては、ノヴァミュートが「ナグ・ナグ・ナグ」を新ヴァージョン入りで再発して話題となり、若い世代からも賞賛されている。そして、アンディ・ストットやファクトリー・フロアなどのインダストリアル・サウンドがふたたび脚光を浴びている今日、オリジネイターであるキャバレ・ヴォルテールは、リ・リ・リヴァイヴァルしている。テクノの名門ミュートが過去の音源を買取り、もっとも再評価の高い『ザ・クラックダウン』をはじめとする、彼らの再発が2013年末から2014年にかけて展開される。パンクでテクノでノイズのキャブスの時代が、またやって来たのである。— 野田努 (ele-king)