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DAIJIRO MIZUNO

水野大二郎 / Daijiro Mizuno

1979年、東京生まれ。Royal College of Art 博士後期課程修了、芸術博士(ファッションデザイン)。

京都造形芸術大学 ファッションデザインコース非常勤講師/同大学ウルトラファクトリー・クリティカルデザインラボ ディレクター/
DESIGNEAST 実行委員/FabLab Japan メンバー/
ファッション批評誌 FASHIONISTA(仮)を蘆田裕史と共同責任編集の元、2012年2月に刊行予定。

Twitter アカウント:@daijirom / @mag_fashionista / @narumizu2011 / @designeast01
Webサイト:www.daijirom.com

早稲田大学繊維研究会 インスタレーションとトーク

こんにちは、水野です。

あっという間に年末ですが、早稲田大学繊維研究会のインスタレーションとトークがあり、ゲストとしてお声がけいただきました。パルコの高野公三子さんとファッショニスタ編集委員の二人(蘆田裕史くんと私)、繊維研究会の代表の堀井さん、小林さん司会による座談会形式が去る12/18にありました。

トークの前に、まず展示されていた作品についてお話を少ししたいと思います。僕は実は、プロの作品か専門的にファッションを学んでいる学生の作品以外で服作りに携わる人の展覧会の伺うことはこれまでほとんどありませんでした。その時と同等の評価軸で作品を見るのは違うんじゃないかと思って見させてもらいました。個々の作品の完成度に関してコメントがしづらいので、全体の感想まとめとして書きたいと思います。

縫製やパターン製図に関する技術、アイデアを形にするという意味で大切ですよね。デザインする行為の包括性を考えると、ディテールのスタディとかを経て、技術的側面からデザインを洗練させることも必要かなと思いました。あるいは、ドローイングしながら切り返し線やダーツの位置など、分析的ドローイングのエクササイズからデザインの記号性を検証していくというように、技術的側面と批評的視座を並列的に実践において理解してみたりするのもいいかもしれません。

それと同様に、デザインのネタになる個人的体験としてのエピソード、夢、直感、欲望と、客観的な資料としての歴史、芸術、科学など、もっと幅広くネタを集め、利用できるようにデザインの方法論自体を考えて見てもいいのではないかと思いました。ファッション雑誌ばかりを見てデザインをしていると、消尽した、あるいは誕生したばかりの、緊張感あるデザインの状態を創り出すのが難しくなります。記号的操作の方法論自体を問い直しながら、すでにある様々なネタをファッション以外からも発見しつつ、独自の態度としての制作方法論を確立するためにも、デザイナー、アーティスト、エンジニア、クラフトマン、サイエンティストらがこれまでうみだしてきた形をよく見て、知って、データベースとして使えるようにしたりするといいかもしれないなと思いました。セレンディピティ的なアイデアが引き出しやすくなるかも。あるいは、ベルグソンがいっていた記憶ーイマージュ的な話とかにも繋がるかもしれないですね。

以上、アイデアと技術と形を横断する実践的思考としてのデザインがより洗練されると、展示物の見応えが伺うお話との相乗効果で本当に面白くなるのではと思いました。そして、そこに批評的な視座を様々なフェーズに挿入することによってデザイナー独自のモノの見方が生成されるといいなーと思っています。

さて、トークですが、とにかく感動したのは繊維研究会の司会のお二人を始めとした、繊維研究会のメンバーの意識の高さです。特に司会の小林さんは哲学を学ばれていて、代表の建築を学ばれている堀井さんと同様、論客として自身の考えを自身が見つけた問題に対して極めて誠実に語る姿が印象的でした。 来場者の皆さんがわかったかどうかは多少気になるところではありますが、とにかく彼らの熱意、問題意識、考えは伝わったのではないかと思います。学生運動の集会のような雰囲気もどこかしらにあったかのような状態で、個人的には楽しかったです。

トークの内容は、ストリートファッションにおけるアプロプリエーションなどのボトムアップの創造性やギャルの話、ゼロ年代のファッションの話、ファッションと批評の可能性についての話と多岐に渡りました。僕としてはデザインのコミュニケーション、方法論、Web2.0との関連性などから立ち現れるアーキテクト的存在の重要性の指摘をしたり、批評の在り方の可能性を提示したりしてみたつもりです。スマートモブスや一般意思2.0の紹介などもしたり、複数化するアイデンティティーズの話をしたりもしましたから、ファッションデザインの作品論みたいなのを期待されていた人は困惑したかと思います。

でも、ユニクロやH&M、ナイキやプーマなどがデザイナーとコラボレーションして商品を開発する昨今です。デザインの価値を理解するには、
普通の服にあたかもうもれてしまったデザイナーの創造性を発掘するような作業も必要になってきてしまいました。かつてビッグステイトメントをだすスペクタクル型デザイナーは多くいましたが、今は数える程です。デザイナーの価値とは、作品にのみ発見されるだけではなく、その背後や周辺にあるストーリーにも発見されるべきだし、そういう状況を丁寧に設計しないと価値が伝わらないという課題があります。コミュニティを作るデザイナーや、ドメスティックな状況を生み出す傾向というのもどこか「価値の共有」という点から共通するものがあるのでしょうか。

とにかく、司会のお二人の熱意あって大盛況でした。とても面白かったので、今後も早稲田大学繊維研究会を注視して行きたいと思います。
ありがとうございました。

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